(※写真はイメージです/PIXTA)

世界的なM&Aの停滞が起きているなか、製薬・医療・バイオテクノロジー(PMB)業界では、その流れに一石を投じる可能性があります。この記事では、2023年上半期のPMBセクターと、それ以降の見通しを紹介します。※本記事は、Datasite日本責任者・清水洋一郎氏の書き下ろしです。

アメリカ大陸の重要セクターに見える「活気の兆し」

EY(Ernst & Young)の調査によると、2023年の年末までに約2,000億米ドルに相当する医薬品特許の失効が起こると予想されており、製薬業界の世界的大手企業はそれを見据え、ディールメイキングのために14億米ドルの軍資金を準備して2023年を迎えました。そして2023年上半期には、ファイザー、メルク、サノフィを含む業界大手各社が注目すべき取引を発表し、これら資金の一部が投入されたのです。

 

ここで重要になってくるのは、製薬・医療・バイオテクノロジー(PMB)事業者が将来の収益を守る決意を固めている点でしょう。

 

アメリカ大陸では、メガディールがその大部分を占めています。2023年上半期に発表された100億米ドル超の取引は3件、さらに50億米ドル超の取引が2件ありました。昨年の上半期に、この規模の取引がわずか1件だったことを見ても、対照的な結果といえるでしょう。

 

上半期のアメリカ大陸最大のPMB案件は、ファイザーによる457億米ドルのセーゲン買収でした。この取引は2023年後半から2024年前半の完了を目指していますが、この一件で独占禁止法の介入の兆候が見られなかったことは朗報です。

 

アメリカ大陸で次に大きいPMB取引では、メルクが4月にプロメテウス・バイオサイエンシズに109億米ドルを支払うことで合意したケースでした。2023年上半期に発表されたPMBセクターの取引総額は1,581億米ドルで、2022年の同時期から47%増加しています。これは、23年上半期が、この地域における過去5年間のPMBセクターのM&Aで最も好調な期のひとつとなったことを表しています。

APACの新興市場、ヘルスケア成長を促進

APACでは、上半期に396件のPMB案件が発表され、前年同期の514件から23%減少しています。それでも、オーストラリア、インド、韓国のアセットが関与した3件の案件が10億米ドルの基準を超えました。この地域は海外の投資家を引き付けており、実際、上半期に記録された案件のうち5位、6位、7位には米国と英国の買収者が参加しています。

 

APAC下期のPMBセクターのM&Aは、新興市場が成長する可能性が高く、より明るい見通しとなりそうです。東南アジアやインドでは人口がますます豊かになっており、質の高い医療に対する需要は高まる一方です。さらに、韓国や日本のような国々では、少子高齢化が急速に進んでいるため、ヘルスケア・サービスに対する長期的な構造的需要が創出され続けると予想されます。

 

APACにおけるクロスボーダーM&Aのディールメイキングは、より友好的な規制環境が整った市場で増加すると予想されます。また、株価が低迷しているため、上場企業のテイク・プライベート案件が増加する可能性も否定できません。

 

一方で個別化医療に対する需要の高まりは、最先端技術や知的財産権を保有する企業(遺伝子治療やバイオテクノロジーなど)が関与する小規模の戦略的M&A案件を後押ししています。

PEがEMEAにおける「PMBディールメイキング」を活性化

ここ数年のEMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ)における医薬品M&Aの大きな話題は、PE(プライベート・エクイティ)がこのセクターのディールメイキングに並々ならぬ意欲を示していることであり、その関心は2023年上半期も引き続き活発化しています。

 

欧州の細分化されたヘルスケア業界は、統合の機が熟した状態です。この業界は市場のショックに比較的対応できる安定した需要とイノベーションがあるため、プライベート・エクイティ・ファームはこの業界に対して魅力を感じています。

 

また、上場企業がコスト上昇とインフレに苦しんでいるこの業界において、プライベート・エクイティ・ファームは業界の活性化に適した存在と言えるでしょう。

 

EMEAのPMB業界では、合計121億ユーロに相当する157件のバイアウトが発表されました。プライベート・エクイティ・ファームによる大手製薬企業への投資は、この業界での健全なディールメイキングに反映され、今年上半期は一貫して好調を維持しています。

 

EMEAのPMB市場におけるプライベート・エクイティ(PE)の優位性を象徴するように、上半期に発表された最大の案件は、スウェーデンのPE企業EQTとアブダビ投資庁ADIA(その子会社Luxinvaを経由)が、英国の動物用医薬品メーカーDechraの55億ユーロのバイアウトを追求したものでした。

 

今後、ディールメイキングが特に活発になるのは、EMEAのDACH地域(ドイツ、オーストリア、スイス)だと考えられます。Mergermarketの「売り出し中企業」記事の分析によると、この地域には66件の潜在的な製薬取引があり、EMEA全体で最も多くなっているからです。

健全なディールメイキングのためのテクノロジーの利点

世界的なM&Aの動向は、経済的・地政学的な不確実性の下で活動が鈍化していることを示しています。

 

課題として、潜在的なターゲットや機会を特定し、構築し、管理することが挙げられます。リソースが限界点を超えて引き伸ばされている医療・ライフサイエンス分野では、こうした課題がかつてないほど大きくなっているといえるでしょう。

 

 

清水 洋一郎
Datasite 日本責任者

 

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