(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍等の影響も残り、これまでは低調さが垣間見えていた世界のM&A市場。その流れから、不穏な未来予想を立てる破滅論者のごとき関係者も見られましたが、ここへきて、世界各地のM&A市場では明るい兆しが見えてきました。各エリアの最新状況を見ていきます。※本記事は、Datasite日本責任者・清水洋一郎氏の書き下ろしです。

ディール件数…欧州・EMEAは相対的に好調、APACもそこそこ

米国の消費者は、インフレなどお構いなしとばかりにトレンドに逆らって、気ままな消費活動を続けています。これには多くのエコノミストが驚きましたが、そのおかげでこの世界最大の経済は持ちこたえています。

 

欧州・EMEA(中東・アフリカ)のM&Aディール件数は、中堅市場の好調を受けて、どの地域よりも相対的に好調でした。APACのディール総額も、2021年の大半の時期の数字を大きく上回り、2022年よりはやや減少した程度でした。

南北アメリカのM&A、2024年は「PE」が下支えの可能性

南北アメリカのM&Aは、最も不利な条件の中で長いこと低調に進行してきました。取引の資金調達は依然として極めて高額であり、このために未公開株式(PE)は明らかに不利な状況にあります。

 

全体的な傾向として最も懸念されるのは、取引量が減少し続けていることです。M&A件数がこれより少なかった時期を見つけるには、2020年の最後の3カ月にまで遡らなければなりません。昨年の印象的な額面には注意点があります。それは、その大部分が新規投資でのM&Aによるものではなく、スピンオフ活動によるものであるという点です。

 

とはいえ、この年の最大の取引が全額株式交換であったことからもわかるように、巨額の現金残高を持ち、株価が上昇している戦略的プレーヤーによっていくつかの巨額な取引が成功裏に開始されています。

 

ようやく年内後期には金利が緩和される見通しであること、PEの手元資金と企業資金が記録的な水準にあることから、2024年に前年比プラスとなる可能性は十分にあります。

米国バイヤー、EMEAへ「ドル投入」のワケ

EMEA市場における取引には、いくつかの大きなプラス材料が見られます。後半の数ヵ月間は伸び悩んだものの、2023年は上半期の取引量が、世界のM&A市場において記録的な時期であった2022年下半期を上回りました。

 

バイヤーはリスクを管理しています。一部の例外を除き、明らかに小規模な取引へとシフトしています。中堅市場のPEファンドは、低い取得価格で成長プロファイルが高い株を買っており、大手のスポンサーでさえ、大規模中堅企業の取引を優先することで再調整を図っています。

 

2024年に入り、米国のバイヤーは相対的な価値を求め、欧州に引き続きEMEAへドル資金を投入していくことが予想されますが、それには十分な理由があります。

 

インフレが安定するにしたがい、投資家は徐々に自信を深めており、買い手と売り手の期待が一致していくにつれ、買値と売値の差は狭まっています。プライベートクレジットの供給が増加していることも、スポンサーにとっては大きなプラスであり、未公開株式バイヤーの膨大な手元資金投入を後押しするに違いありません。

産業関連の取引が主流となるAPACのM&A、主役は中国に

2023年もAPACは世界の成長エンジンであり続けました。国際通貨基金(IMF)は、この地域のGDPが昨年4.6%拡大し、2022年の3.9%より増加したと見ています。経済生産高は中国で回復し、インドとASEANの工業国でも拡大が続きました。

 

国際観光業の回復は、タイ、マレーシア、シンガポールといった国々のサービス業の輸出にプラスの影響を与えました。オーストラリア、マレーシア、インドネシアなどの天然資源国も、世界の商品価格が最近の平均を上回る傾向にあることから恩恵を受けています。

 

APACのM&Aは産業関連の取引が主流であり、中国経済の成熟は、中国2.0と呼ばれるより洗練された段階へと移行していて、今後しばらくの間は経済活動の主役となるでしょう。

 

世界第2位の経済大国における発展の新たな段階は、輸出主導の急速な成長から、付加価値産業、技術革新、国内消費に重点を置く、より成熟したバランスの取れた経済への移行を特徴とすることになるでしょう。品質、持続可能性、先端技術の統合の重視は、今後のM&Aのあり方に影響を与えることでしょう。

 

 

清水 洋一郎
Datasite 日本責任者

 

 

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