回復しつつあるM&A市場、今後の進展は
2024年上半期のいくつかのトレンドは、グローバルM&Aが回復基調にあることを示していますが、依然として、地域や地方のマクロ経済と規制の状況、株式市場の業績、流動性フローが、細かいレベルでディールメーキングに影響を与えています。
市場は、2021年から2022年にかけての高水準からは下抜けしているかもしれませんが、上半期の南北アメリカのM&A活動は、回復の兆しを見せました。欧州は最近、その成長にいくらかの改善が見られますが、地域としては出遅れているという事実は否めません。APACでは、上半期のM&A額が減少し、他の地域に遅れをとっています。
M&Aを促進していると、どのような進展があるでしょうか。また、ディールメーキングを抑制している要因は何でしょうか。
米国:勢いを増し、北東アメリカがM&Aの中心地に
第1四半期に大幅な減速を経験した後、米国は例外だという論調が再燃しています。第2四半期のGDPは年率で2.8%増加し、ディスインフレは軌道に戻りました。ディール総額は9,760億米ドルに達し、2023年上半期の7,350億米ドルを32.7%上回りました。
米国北東部が、南北アメリカにおける今後のM&A活動の中心地であることに変わりありません。790件のディール報告があり、この地域は、南北アメリカにおける潜在的なディール活動全体の約30%を占めています。
将来予測のデータによると、米国南部は強力なプレイヤーであり、609件の潜在的なディールを記録しています。この増加傾向は、税金が低いことや、緩和的な規制環境など、この地域の有利なビジネス条件と見合うものです。
エネルギー・鉱業・公益事業(EMU)ディールでは、豊富な天然資源を有するカナダとブラジルが目立つ存在です。
オイルサンドや天然ガスを含む、さまざまな再生可能エネルギー資源があり、多様なエネルギーを利用できる環境にあるカナダでは、EMUが引き続きM&Aを牽引しています。ブラジルでは、伝統的なエネルギー資源の分野で、このセクターの強みが表れており、水力発電も中心的な役割を果たしています。
南北アメリカ全体では、通信・メディア・テクノロジー(TMT)が常に最も活発なセクターとなっており、潜在的ディール件数は716件で、全体の27%を占めています。米国政府は最近、人工知能(AI)開発と半導体生産の国内回帰を推進しており、ディール活動が活発化する可能性が高まっています。
しかし、大型取引が行われているにもかかわらず、M&A件数は依然として低調です。この件数の低迷は、最も業績が良い3つのセクターすべてに見られます。TMTは18.7%減で、ビジネスサービスは26.3%減とさらに急減しており、製薬・医療・バイオ(PMB)業界も24%減となりました。
EMEA:先端技術への需要受け復調、転換期の可能性
EMEAのM&A市場は複雑な様相を呈しています。
資本投下はまずまずのペースで行われており、転換期を迎える可能性があります。ブロックバスターディールの顕著な増加という特徴も見られています。上半期には、ディール件数は減少しましたが、ディール総額は増加しました。ディール件数は前年同期比で13.9%減少しましたが、ディール総額は30.6%急増しました。
たとえ、経済がエネルギー危機の影から抜け出しても、欧州の産業の中心地は、逆風に直面しています。コスト高という継続的な圧力は、ドイツのエネルギー多消費産業に影響を及ぼしています。
それでも、DACH市場は大きな可能性を秘めており、工業および化学(I&C)セクターがこのサブリージョンを牽引しています。
トルコ、中東・アフリカ、中央および東欧州と南東欧州のサブリージョンは、今後予定されているディールやセクター全体の広がりと多様性において、DACHをわずかに上回っています。これらの地域では、TMTとI&Cがほぼ拮抗してディールフローを牽引しています。
EMEA全体でも、TMTは、人工知能(AI)、サイバーセキュリティ、クラウドサービスなどの先端技術に対する需要の高まりに伴い、引き続き多額の投資を集めています。
AIは、EMEAにおけるディールメーキング全体において、金額と件数ともに引き続き、米国がトップ入札国であることから、欧州と米国で重要な投資争奪戦の場として浮上しています。
EMEAにおけるプライベート・エクイティ・バイアウトは、金額ベースで急回復し、上半期には、前年同期比93.9%増の1,236億ユーロに達しました。バイアウト件数も13%増の1,531件となりました。
APAC:M&A額の落ち込みが逆転へ
広範なAPAC地域は、あらゆるディール市場のなかでも、最も強力な経済ファンダメンタルズを備えていますが、この点は最近のM&Aトレンドには反映されていません。APACにおける最近のM&Aデータの内容は、悲観的です。取引件数は、前年比で11.5%減少しました。
総額の減少はさらに顕著で、2023年上半期と比較して24.6%減少しました。メガディールはほぼ皆無で、今年上半期までに記録されたのは、3件のみでした。
セクター別では、上半期のAPAC M&A全体の54%をTMT、I&C、ビジネスサービスの各セクターが占めました。
TMTは1,287件のディールを発表し、トップでした。I&Cが717件でこれに続き、ビジネスサービスは483件で、比較的安定していました。ディール金額では、上位3セクターは取引件数ランキングとは若干の違いが見られました。不動産が、TMT、I&Cに続き、金額ベースで第3位のセクターとなりました。
中国、インド、日本は、APACにおけるM&Aの金額、件数ともに引き続き上位の入札国となっています。
オーストラリアとニュージーランドのM&A市場は、回復の兆しを見せています。重要な鉱物は、オーストラリアがこの分野での対外投資政策を微調整するなかで、EMUの焦点となります。
インドでは、米国と欧州の企業買収者が、経済の成長ストーリーに参入したいと考えているため、着実な資金流入が続いています。
清水 洋一郎
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