(※写真はイメージです/PIXTA)

足元「米国の利上げが長期化する」との見方から、日米で株価が急落しています。しかし、フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏は、「FRBの見立てを信じるかぎり、なにも恐れることではない」といいます。いったいなぜなのでしょうか。詳しくみていきましょう。

FRBが公表した“いくぶん好都合な”経済見通し

米連邦準備制度理事会(FRB)は、連邦公開市場委員会(FOMC)参加者による最新の「四半期の経済見通し」を公表しました。ポイントは2つ挙げられます。

 

ポイント1.FRBはソフト・ランディングを見込んでいる

1つ目のポイントは「いまや、FRBはソフト・ランディングを見込んでいる」という点です。

 

■【実質GDP成長率を上方修正】23年1.0%→2.1%(6月時点見通し→9月時点見通し)、24年1.1%→1.5%、25年1.8%で据え置き

 

FRBは1.8%を潜在成長率と考えていますから、25年には景気は巡航速度付近に戻るとの見通しです。

 

■【失業率を下方修正】23年4.1%→3.8%、24年4.5%→4.1%、25年4.5%→4.1%

 

FRBは4.0%を「インフレを加速も減速もさせない失業率」と考えていますから、25年には景気は巡航速度付近に戻るとの見通しです。

 

このうち、失業率を例にとると、前回6月の見通しでは「失業率は来年には4.5%程度まで上がる」と示されていました。これは、過去の失業率と景気後退のパターン(たとえば『Sahmルール』)に照らせば、景気後退と整合性のある水準でした。

 

ところが、今回9月の見通しでは「失業率はせいぜい4.1%までしか上がらない」と示されています。これは「景気後退の(ギリギリでの)回避」と整合性があります

 

※ 補足すると、この見通しの一方で、パウエル議長は記者会見では「ソフト・ランディングがベースライン・シナリオか」との記者の問いに対し、「No」と明確に答えています(→①ソフト・ランディングかそうではないかは、結局のところFRBがコントロールできない要因によって決まる、②物価安定が最優先であり、ソフト・ランディングを目指すことが足かせになって、これ(物価安定)をおろそかにすることはない)。議長自身は上記の見通しよりもやや弱気にみているのかもしれません。

 

ポイント2.政策金利見通しの引き上げ

2つ目のポイントは「政策金利見通しの引き上げ」です。

 

上記のとおり、「経済見通しが(ソフト・ランディングに)上方修正」されれば、「景気は以前の想定よりも強い」ということですから、「インフレ圧力も上方修正」されます。そうした「追加のインフレ圧力」を相殺するためには「以前よりも高い水準での政策金利の誘導」が必要になります。

 

こうした関係性を反映してか(→本節後段で補足)、今回の「四半期の経済見通し」では、

 

■【コア・インフレ率見通しはほとんど変わらず】23年3.9%→3.7%、24年2.6%で変更せず、25年2.2%→2.3%

 

FRBは26年中にインフレ目標2.0%への目標到達を見込んでいます。

 

■【政策金利を上方修正】23年5.625%で変更せず、24年4.625%→5.125%、25年3.375%→3.875%と、24年と25年の政策金利水準を引き上げました。

 

補足しますと、本来、「景気が強いとの新たな見通し」に対し、先んじて高めの政策金利で対応するならば、GDP成長率はその「新たな見通し」ほど高まらず、失業率はそれほど下がらず、インフレ率はそれほど上がらないとなるので、「全部、もとの姿」のはずです。

 

他方で、今回の見通しは前回の見通しに比べて「成長率は高く、失業率は低く、インフレは上がらない」という、失業率とインフレ率のトレードオフ(フィリップス曲線)を無視するかのような好都合な見通しになっています。FRBの見通しはこうした「ちぐはぐ」がよく起きるように感じます。

 

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