節税用に購入した不動産に「追徴課税」が発生…税務調査で圧倒的に不利になる「致命的証拠」とは?【税理士が解説】

節税用に購入した不動産に「追徴課税」が発生…税務調査で圧倒的に不利になる「致命的証拠」とは?【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

不動産購入は節税対策の常套手段です。しかし、記録に残す資料によっては税務調査で指摘を受ける可能性もあるため、十分注意が必要です。本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、さまざまな事例をもとに税務調査で不利に働く証拠について、同氏が解説します。

「行き過ぎた節税」とみなされる条件

金子宏教授は「節税が租税法規が予定しているところに従って税負担の減少を図る行為であるのに対し、租税回避は、租税法規が予定していない異常ないし変則的な法形式を用いて税負担の減少を図る行為」と定義付けをした上で、「もっとも、節税と租税回避の境界は必ずしも明確でなく、結局は社会通念によって決めざるをえない(租税回避に対しては、(・・・筆者省略・・・)個別的否認規定が設けられることが多い)。」と代表的な教科書で述べられています※3

 

租税回避は租税法において、ネガティブなイメージしかありません。租税回避は脱税ではないタックスプランニングなのだから、タックスという事業コストを最小限にするための事業上の戦略という論者の意見は黙殺されます。これは「行き過ぎた」租税回避プランニングに原因があります。

 

行き過ぎた、との判断は、金子教授の「社会通念」(=常識、経験則)で判断されるものです。租税法に係る事実認定において「行き過ぎた」かどうかは、社会通念で個別具体的にジャッジされます。特に資産税については、

 

・個別の財産評価

・相続対策や事業承継対策について

 

それぞれ個別具体性が他税目に比較し、極めて強く、そのため事実認定になってしまう傾向があります。審判所や裁判所といった係争に限定されず、現場レベルの調査でも全く同様のことがいえます。

 

なお、個別具体的な取引ではなく汎用スキームについては、行き過ぎたという社会通念が一定程度累積した時点で個別否認規定による対応がなされる傾向があります。令和4年度税制改正における節税商品封じ込めや、令和2年度税制改正における下記の改正等々は、そういった意味で典型的でした。

 

国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例創設(大綱33頁~)※4、居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等の適正化(大綱84頁~)※5、子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避への対応(大綱88頁~)※6、といったものがありました。

 

本書は講学上の議論に一切言及しませんが※7、最近の研究者や裁判所の租税回避に対するスタンスを概観するに、そもそも論である租税回避についての定義付けについては明確化を回避しているものが比較的増加しています。租税回避の定義付けに意味がない、と切り捨てる若手研究者もかなり多くなっています(租税回避をしたかどうかは人の心の内にあるものだから)。

 

これは、現行租税法に法文はないが、租税回避行為「と言えるもの」については、当該行為があった時点での法の欠缺があったまでであり、将来同じ行為が予測されるならば、個別否認規定を都度設けなさい、と要請をしているという傾向です。

 

では、個別否認規定が法文化されるまでは、それは法文に抵触されていないから問題ないか、といわれると、違います。先述の行き過ぎたという社会通念の累積過程の途上にあるにすぎないからです。

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/339/089339_hanrei.pdf

 

******************参考******************

※1:大阪国税局 文書回答事例「別紙持株会社を株式交換完全親法人とする株式交換における事業関連性の判定について」より抜粋

 

※2:国税庁 質疑応答事例法人税「持株会社と事業会社が合併する場合の事業関連性の判定について」より抜粋

 

※3:金子宏『租税法』(弘文堂第23版2019年)127~128頁

 

※4:いうまでもなく会計検査院報告指摘事項であった。最近の指摘事項から税制改正された代表的なものとして下記がある。

 

2005年度決算検査報告(2006年公表)

小規模宅地等の特例(相続税の大幅な節税が可能な特例)に関する規制

 

2008年度決算検査報告(2009年公表)

自動販売機設置による消費税還付スキーム賃貸不動産などの建築取得にかかる消費税を、自動販売機設置等を利用して還付するスキームが著しく公平性を害すると指摘。2010年に改正。

 

2006年度決算検査報告(2007年公表)

定期金の評価(保険を使った相続税節税スキーム)に関する規制約1億円の個人年金保険に加入、年金受給権を35年超とすれば相続税評価額は約2,000万円となる評価額引き下げスキーム。2010年に改正。

 

2011年度決算検査報告(2012年公表)

相続税の取得費加算に係る規制、2014年に改正。旧法では、土地を相続した際に係る相続税が1億円とする。そのうち一部でも売却した場合においても、売却した金額から全体の相続税に係る1億円を控除可能であった。

 

※5:いうまでもなく当該箇所は複数の節税スキームを一斉に封じ込めた。

 

1)金取引による消費税還付スキーム

2)免税期間中に高額特定資産を取得、課税期間に切り替わったところで棚卸資産の調整措置で仕入税額控除適用。その後、免税期間に戻り、高額特定資産を売却。この場合、売上げに係る消費税は納付せず、仕入税額控除相当額の還付を受けていた、というスキーム

 

※6:日本経済新聞「ソフトバンクG、法人税ナシ税法の盲点は」2019年6月21日、同「M&A絡む節税の抜け穴封じへソフトバンクGが発端財務省「意図的な赤字」問題視」2019年10月20日のとおり、租税回避行為にはネガティブなバイアスをもって報道される。

 

※7:講学上の租税回避を確認したい、またそこから発展される議論としてGAARについて確認されたい読者には下記をお勧めする。伝統的に京都大学系統の研究者の研究書が比較的多い。

 

清永敬次『租税回避の研究』(ミネルヴァ書房2015年)、谷口勢津夫『租税回避論』(清文社2014年)、今村隆『租税回避と濫用法理』(大蔵財務協会2015年)、今村隆『現代税制の現状と課題<租税回避否認規定編>』(新日本法規出版2017年)、川田剛『節税と租税回避』(税務経理協会2009年)

 

 

伊藤 俊一

税理士

 

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