(写真はイメージです/PIXTA)

東京都心Aクラスビルの空室率は、在宅勤務の普及などを背景に上昇し、2014年第3四半期以来となる5%台に達しました。本稿では、ニッセイ基礎研究所の吉田資氏が、東京都心部Aクラスビル市場の動向を概観し、2027年までの賃料と空室率を予測します。

(3)在宅勤務の状況~「在宅勤務」を取り入れた柔軟な働き方が定着。オフィスの見直しは今後も継続

新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「在宅勤務」が急速に普及した。

 

都内企業のテレワーク実施率をみると、2022年までは緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の発令期間(2021年1~3月、4~6月、7~9月、2022年1~2月)は60%台、それ以外の期間は50%台で推移していた。しかし、2023年に入るとさらに低下し2023年7月は45%となった(図表-15)。

 

また、パーソル総合研究所「テレワークに関する調査」(2023年7月実施)においても、東京都のテレワーク実施率は前年比▲6%低下の39%となっている。新型コロナウィルスの5類感染症移行等に伴い、テレワーク(在宅勤務)実施率は低下傾向にあると言える。

 

 

 

従前、「在宅勤務」は、コミュニケーション頻度の低下等により、労働生産性が低下するとの懸念があった。

 

しかし、公益財団法人日本生産性本部「働く人の意識に関する調査」によれば、「自宅での勤務で効率が上がった」という質問に対し、効率が向上(「効率が上がった」と「やや上がった」の合計)は、34%(2020年5月)から72%(2023年7月)へ大幅に増加している(図表-16)。

 

また、「今後もテレワークを行いたいか」という質問に対し、テレワークを行いたい意向(「そう思う」と「どちらか言えばそう思う」の合計)は、62%(2020年5月)から87%(2023年7月)へ増加した(図表-17)。今後もテレワークを取り入れた働き方を希望する就業者は多いようだ。

 

 

 

ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2023春」によれば、東京23区の事業所に対して、出社率8の今後の意向を尋ねた質問では、「100%(完全出社)」との回答が19%に留まった。「オフィス勤務」に「在宅勤務」を取り入れたハイブリッドな働き方は、今後も継続するものと想定される。

 

こうしたなか、オフィスの見直しに着手する企業が増えている。月刊総務「オフィスについての調査」(2023年3月発表)によれば、「過去3年間でオフィスの見直しを行った」との回答は59%、「見直しを検討している」との回答が25%を占めた。

 

「オフィスの見直し」の実施内容について、「レイアウトの変更(74%)」との回答が最も多く、次いで、「専有面積縮小(35%)」、「拠点の集約(21%)」、「コワーキングスペースやレンタルオフィスの契約(21%)」との回答が上位であった(図表-18)。

 

「在宅勤務」を取り入れた柔軟な働き方が定着したことで、オフィス拠点集約・統合や賃貸面積の一部解約、自社オフィスからサードプレイスオフィス利用への変更等を実施する企業が増えている模様である。

 

 

 

8 オフィスと在宅での勤務割合

 

(4)フリーアドレスの導入状況~フリーアドレスの導入が広がり、スペース利用の効率化が進む

コロナ禍で「在宅勤務」が普及し、オフィスに出社するワーカー数が流動的となるなか、フリーアドレスを導入する動きが広がっている。

 

みずほリサーチ&テクノロジーとアスマークの共同調査9によれば、「直近1ヵ月に実践した働き方」について、「フリーアドレスの出社勤務」との回答が52%を占め、「固定席の出社勤務」(36%)を上回った。オフィスでの勤務においても、従業員が自由に席を選択できる多様な働き方が広がっている。

 

ザイマックス不動産総合研究所が、東京23区に所在する企業を対象に行った調査10によれば、出社1人あたりの座席(中央値)は、2021年の1.85席から2022年の1.67席へ減少した。

 

また、「今後の意向」については1.18席と更に縮小している。在宅勤務の普及に伴い出社人数が減少したことで、フリーアドレス等を導入して、座席数の見直し(削減)を行う企業は増えている模様だ。

 

フリーアドレスは、フレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態である。今後もフリーアドレスの割合を高め、スペース利用の効率化を進める企業は増加すると考えられる。

9 「ワークプレイスの自立的な選択と効果に関する最新データ」(2023年3月時点)
  固定席の出社勤務にとどまらない、フリーアドレスをはじめとした多様な働き方を実施する有職者が調査対象。

10 ザイマックス不動産総合研究所「コロナ禍で変わるオフィス面積の捉え方(2022年)」2023年3月14日

 

(5)企業のオフィス環境整備の方針~「Well-being」やコミュニケーション促進を意図した整備が継続

コロナ禍以前の「働き方改革」を契機に高まった、従業員満足度の向上や優秀な人材確保などを目的とするオフィス環境整備が継続している。特に、コロナ禍以後、感染症拡大防止や施設利用者の健康に配慮した対応が求められるなか、従業員の「Well-being」に配慮したワークプレイスの構築が求められている。

 

ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2023春」によれば、「メインオフィスを設置する物件にあるとよい要件」として、「ビルの清掃衛生・維持管理状態が良い」(58%)や「自然光が入る」(36%)「ビル内・周辺のアメニティの充実」(31%)が上位に位置している(図表-19)。

 

企業の社会的責任や従業員満足度の向上、人材確保の観点から「Well-being」に配慮したオフィス環境整備が今後も継続すると考えられる。

 

 

 

また、「在宅勤務」を取り入れた勤務形態への移行が進むなか、コミュニケーションに関する課題が指摘されている。

 

パーソル総合研究所「テレワークに関する調査」(2023年7月実施)によれば、「テレワーク時の不安感」について、「非対面のやりとりは、相手の気持ちが分かりにくく不安だ」(43%)や「相談しにくいと思われていないか不安だ」(28%)、「仕事を頼みにくいと思われていないか不安だ」(26%)との回答が上位に位置している(図表-20)。

 

こうした状況下で、オフィスの役割は、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」と再認識されている。

 

月刊総務「オフィスについての調査」(2023年3月発表)によれば、「これからのオフィスで重視する機能」として、「コミュニケーションスペース」(76%)との回答が最も多く、次いで「Web会議用スペース」(59%)が多かった。

 

「在宅勤務」を取り入れた働き方が定着するなか、オープンなコミュニケーションスペースや、web会議用スペースを整備する企業が増えている。

 

以上を鑑みると、企業は「Well-being」への配慮や従業員間のコミュニケーション促進を重視し、今後もオフィス環境の整備に積極的に取り組むことが想定される。

 

 
次ページ3.東京都心部Aクラスビル市場の見通し

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年9月28日に公開したレポートを転載したものです。

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