(写真はイメージです/PIXTA)

東京都心Aクラスビルの空室率は、在宅勤務の普及などを背景に上昇し、2014年第3四半期以来となる5%台に達しました。本稿では、ニッセイ基礎研究所の吉田資氏が、東京都心部Aクラスビル市場の動向を概観し、2027年までの賃料と空室率を予測します。

2-2.空室率と募集賃料のエリア別動向

三鬼商事によれば、東京ビジネス地区(2023年8月時点)で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「港区(32.2%)」で、次いで「千代田区(29.3%)」、「中央区(17.9%)」、「新宿区(12.5%)」、「渋谷区(8.2%)」の順となっている(図表-6)。

 

「賃貸可能面積」は、「千代田区」(前年同月比▲4.1万坪)、「中央区」(同▲1.4万坪)、「渋谷区」(同▲0.2万坪)で減少する一方、「港区」(同+12.0万坪)と「新宿区」(同+1.3万坪)で増加し、合計+7.6万坪となった。

 

これに対して、テナントによる「賃貸面積」は、「港区」(同+8.0万坪)と「新宿区」(同+1.6万坪)で増加し、合計+7.8万坪となった(図表-7)。この結果、空室面積は、東京ビジネス地区全体で▲0.2万坪の減少となった。

 

 

 

エリア別の空室率(2023年8月時点)を確認すると、「千代田区3.7%」(前年比▲1.2%)、「渋谷区4.2%」(同▲0.0%)、「新宿区5.3%」(同▲0.4%)、「中央区7.1%」(同▲0.5%)が低下した一方、「港区9.5%」(同+1.2%)は上昇した(図表-8左図)。

 

募集賃料は、「渋谷区(前年比+1.4%)」が上昇したが、「中央区(同▲2.1%)」、「千代田区(同▲2.4%)」、「港区(同▲2.4%)」、「新宿区(同▲3.3%)」は下落した(図表-8右図)。

 

 

 

2-3.企業のオフィス環境整備の方針等を踏まえた、今後のオフィス需要を考える

以下では、(1)「オフィスワーカー数の動向」、(2)「事業所の開業率と廃業率の動向」、(3)「在宅勤務の状況」、(4)「フリーアドレス4の導入状況」、(5)「オフィス環境整備の方針」について概観し、今後のオフィス需要への影響を考察する。

4 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。

 

(1)オフィスワーカー数の動向~情報通信業等を中心に就業者数は増加、人手不足感は引き続き強い

総務省「労働力調査」によれば、東京都の就業者数は、2021年第3四半期から8期連続で前年同期比プラスとなり、2023年第2四半期は842万人(前年同期比+5.3万人)となった(図表-9・左図)。

 

就業者を産業別にみると、2018年第1四半期を100とした場合、都心5区のオフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が134、「学術研究,専門・技術サービス業」が121、「金融業,保険業」が108となり、大幅に増加している(図表-9・右図)。

 

 

 

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「関東地方」の「従業員数判断BSI」(全産業)5は、2020年第2四半期に+4.6へ大きく低下した後、緩やかな回復が続く。2023年第3四半期は+21.9となり、コロナ禍前の水準(+20.3)を上回った(図表-10)。

 

業種別にみても、「製造業」・「非製造業」ともに回復しており、2023年第3四半期は「製造業」が+12.4、「非製造業」が+26.3となった。オフィスワーカーの割合の高い「非製造業」は、人手不足感がより強いと言える。

 

 

 

このように、東京都の就業者数は、情報通信業等を中心に増加が続いており、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強まっている。引き続き、雇用情勢を注視する必要があるが、東京都心部のオフィスワーカー数が減少する懸念は小さいと言えよう。

5 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。

 

(2)事業所の開業率と廃業率の動向~都心5区では、開業率が廃業率を上回る

国や地域における経済活動の状況を測る指標の一つに、開業率と廃業率が挙げられる。事業所の開業率と廃業率の差(開業率-廃業率)は、オフィス床の需要を表す指標と考えられる。

 

「開業率-廃業率」の値が拡大した地域は、事業所を開設する需要が高まる一方、「開業率-廃業率」の値が縮小した地域は、事務所開設の需要が後退すると捉えられる。

 

総務省統計局「経済センサス‐活動調査」をもとに算出した値によれば、都心5区の開業率6(2016年~2021年の年平均)は9.1%(全国平均4.7%)、廃業率7は8.0%(同5.5%)となり、「開業率-廃業率」は+1.1%(同▲0.8%)となった(図表-11)。

 

「開業率-廃業率」の全国平均は、廃業率が開業率を上回りマイナスとなった一方で、都心5区ではプラスを維持しており、底堅いオフィス床需要が確認できる。区別に「開業率-廃業率」を確認すると、千代田区(+3.0%)が最も大きく、次いで渋谷区(2.1%)が大きい。一方、中央区(▲1.1%)はマイナスとなった。

 

 

 

また、産業別に、都心5区の「開業率-廃業率」を確認すると、オフィスワーカーの割合が高い「金融業,保険業」が+5.6%(図表-12)、「情報通信業」が+4.7%(図表-13)、「学術研究,専門・技術サービス業」が+3.8%(図表-14)と高水準となっている。

 

都心5区において、これらの業種のオフィス床需要は旺盛だと言える。区別にみると、「情報通信業」と「金融業,保険業」は千代田区(+10.0%・+7.5%)が最も大きく、「学術研究,専門・技術サービス業」は渋谷区(+5.6%)が最も大きい。

 

政府は「スタートアップ育成5か年計画」を2022年11月に策定し、創業支援に乗り出している。今後、創業支援の取組みが効果を発揮し、オフィス床需要を下支えすることが期待される。

 

 

 

 

 

6 新設事業所数(2016年~2021年の年平均)÷期首(2016年)の事業所数

7 廃業事業所数(2016年~2021年の年平均)÷期首(2016年)の事業所数

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年9月28日に公開したレポートを転載したものです。

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