前回は、医院の出資持分の「評価」を下げて行う事業承継対策を解説しました。今回は、設備投資、持分なし法人への移行で出資持分を下げる方法を見ていきます。

理事長交代のタイミングでリフォーム等を実施

前回に続き、法人の「評価」を圧縮する方法を説明します。

 

③病院の建て替えや設備投資をして利益を減らす

病院の設備を新しくしたり、建物ごと建て替えたり、リフォームやリノベーションしたりすると、経費を大きく増やすことができます。

 

理事長をバトンタッチするタイミングで建て替えや設備投資をすれば、後継者は気持ちよくスタートを切れるでしょう。従業員たちも心機一転して、新しい理事長を迎えられるはずです。

持分なし法人への移行は平成29年9月末がリミット

④持分なし法人に移行する

持分ありの法人から持分なしの法人に切り替えることで、出資持分に対する財産権そのものを手放す方法もあります。

 

平成26年10月1日から平成29年9月30日までの間の移行については、「移行計画の認定制度」が導入されます。一定の要件を満たして認定を受けた医療法人に対しては、2つの特典が用意されています。

 

一つは、税制措置です。相続人が認定を受けた医療法人の持分を相続または遺贈(遺言によって贈与すること)によって取得した場合、持分にかかる相続税を猶予してもらえます。猶予期間は移行計画の期間満了までです。

 

また、出資者が持分を放棄したことで他の出資者の持分が増加すると、贈与を受けたものとして贈与税が課される場合がありますが、これについても納税が猶予されます。

 

もう一つは、融資制度です。出資持分の払い戻しが生じ、買い取りのための資金調達が必要となった場合、貸付を受けることができます。

 

持分を放棄したい医療法人にとってはとてもありがたい制度なのですが、実は、認定を受けるためのハードルがかなり高いという難点があります。

 

まず、認定を受けるための申請手続きそのものが非常に複雑です。公認会計士や税理士、コンサルタントなど、この分野に精通した専門家の手を借りないと到底できないため、その時間も費用もかかります。

 

さらに、認定のための要件が厳しく、クリアできる医療法人は限られます。せっかく手間暇かけて申請しても、認定されなければ優遇は受けられず、結局は相続税.贈与税を支払うことになります。

 

認定制度を受けたい場合は、平成29年9月末までという期限がありますから、早めに着手することが大切です。まずは、自分のクリニックが認定を狙える範囲内にあるのかどうか、その判断から最初に行うことをおすすめします。認定の見込みもないのに手を出しても、無駄骨になってしまうからです。

 

「うまく行けば認定が受けられそうだ。挑戦してみよう」となったら、実際の申請に向けて走り出してください。走り出した以上は確実に認定を受けられるよう、綿密に計画を立て、一つひとつの要件を着実にクリアしていってほしいと思います。

 

【図表 持分なし法人への移行の流れ】

本連載は、2016年5月27日刊行の書籍『相続破産を防ぐ医師一家の生前対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続破産を防ぐ 医師一家の生前対策

相続破産を防ぐ 医師一家の生前対策

井元 章二

幻冬舎メディアコンサルティング

医師一家の相続は、破産・病院消滅の危険と隣り合わせ 今すぐ準備を始めないと手遅れになる! 換金できない出資持分にかかる莫大な相続税 個人所有と医療法人所有が入り乱れる複雑な資産構成 医師の子と非医師の子への遺…

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