「マッサージ師や職人が富裕層」というケースも少なくない
富裕層の職業というと、上場企業の経営者や官僚、医師や弁護士などの師士業といったいわゆるエリートの姿が頭に浮かぶ人が多いのではないでしょうか?
ある会社経営者の相続税調査をしたときのことは忘れられません。
創業者が亡くなり、あとを引き継いだ息子(社長)から話を聞く必要がありました。そこで調査のアポイントメントをとったところ、「会社に来てください」といわれました。
調査の当日、私は会社に出向いて会議室に通されたのですが、そこにはタンクトップとハーフパンツの姿の男性が、そっぽを向いてうちわで扇ぎながら座っていました。
私はなにか手違いがあったのかと思い、「社長さんにお話をうかがいたいのですが」と告げると、ガバッと振り返り、「俺だよ!」と怒鳴られたのです。
「億単位の資産を相続した社長」ということで、スーツ姿のいかにもエリート然としたタイプを勝手にイメージしていただけに、あのときはショックで言葉を失ってしまいました。
相続税の申告書には、「職業」を記入する欄があります。職業によって相続税の計算が変わるわけではないのですが、職業欄の情報を税務職員は必ず気にします。
というのも、生前の職業をヒントに、どれくらいの資産を残して亡くなったのかを推測するからです。
令和3(2021)年賃金構造基本統計調査によると、日本の職業別平均年収のトップは医師でした。2位以下はパイロット、大学教授と続き、やはり一般的に「エリート」と呼ばれるような職業が目立ちます。
ただ、相続税調査をしていると、富裕層の職業はエリートばかりというわけではありません。むしろ、私が担当した相続税事案では、官僚や大手企業勤めというケースはほぼなく、中小企業経営者や不動産オーナー、個人事業主が多かったのです。
たとえば、地域に密着したマッサージ師や工務店の職人など、一見すると富裕層とは結びつかない職業の人が亡くなり、その家族が相続税を申告しているケースを私は少なからず見てきました。