地球にやさしい発電方式として注目される風力発電ですが、事業者によって環境への配慮はまちまちだといいます。そこで自然保護NGOが、独自の評価軸で風力事業者をランキング。みていきましょう。

本当に持続可能な再生可能エネルギーを促進するために

1)真に持続可能な再生可能エネルギー推進のために、生物多様性保全を重視した事業計画の立案を

今回の解析から、少なからぬ数の風力発電計画が日本の森林生態系や希少鳥類の生息に不可逆的で甚大な影響を及ぼす可能性がみえてきました。

 

国際的にも、生物多様性の損失に歯止めをかけ、自然を回復基調へと転換する「ネイチャーポジティブ」の実現が求められるなか、陸上風力発電の導入が自然環境に不可逆的で甚大な影響を与えることは、世界の潮流に逆行するものです。真に持続可能な再生可能エネルギーの推進のために、更なる自然環境への配慮、生物多様性保全を重視した事業計画の立案が求められます。

 

2)環境アセスメントの情報の公開性向上を

環境影響評価(環境アセスメント)は、環境に著しい影響を及ぼしうる事業などの人間活動について、その影響を事前に調査・予測・評価して環境配慮をする手続きです。その手続きの過程においては、広く利害関係者との間で情報を共有し、議論にもとづく合意形成が求められます。

 

事業をよりよく進めていくためには、環境に影響を及ぼしうる事業の公開性を高め、だれもが情報にアクセスできるようにすることが必要です。

 

3)事業者は自然環境への十分な配慮を

今回の解析から、事業者ごとに自然環境への配慮の程度に大きな違いが見られました。 国際的にも気候変動および生物多様性などの環境問題において、企業の果たす役割の重要性が指摘されています。また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)など、自然環境に関するリスクと機会の情報開示・透明性が企業に求められています。

 

企業が再生可能エネルギーの開発を至上の目的として進めることによって生態系に致命的な影響を与えることがないように、事業を多面的な視点から検討し、真に持続可能なものとする必要があります。

 

風力発電施設および保守点検のための道路や送電線などの関連施設も含めて、生物多様性上重要な地域を避けること、自然林、保護林や緑の回廊など重要な自然環境への影響を最小限にすることなどによって、生物多様性へのリスクを回避することができます。

 

4)国は立地適正化の法整備を

民間事業者の事業を適切に誘導するためには、国が風力発電事業の立地適正化に向けて法律の整備を進めていく必要があります。

 

2020年の内閣府による「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」を受けて、陸上風力発電事業に関しては、環境影響評価法の対象事業規模が1万kWから5万kWに引き上げられました。これにより、自然環境面で懸念があった陸上風力発電事業の一部が環境影響評価法対象事業から外れることになります。陸上風力発電事業の自然環境への影響は、その事業特性から、発電装置の規模よりも立地によるものが大きいことから、自然環境の特性に応じた環境アセスメントの制度化をする必要があります。

 

また、渡り鳥などの保護は国内だけでなく国際的な視点が重要であり、陸上風力発電事業による希少鳥類の生息への影響の軽減は国が責任を持って取組むべき課題です。

 

5)地方自治体の積極的な関与を

2021年に改正された温暖化対策基本法において、地方公共団体実行計画を定めている市町村では、再生可能エネルギーの利用を促進する事業のために、その促進区域の設定が求められています。促進区域を設定する際には、騒音などの住環境だけでなく地域の自然環境を把握した上で適切な設定を行うことが強く求められています。また保安林の解除や農地の転用には自治体の同意が必須であり、自然環境を正しく加味した判断を行うことが重要です。

 

地域内の電力を再生可能エネルギーに転換していくためには、どこでどのように再生可能エネルギーを生み出していくかを議論していく必要があり、地方自治体の積極的な関与が不可欠です。その際には、住環境と自然環境を適切に考慮し、住民に開かれた議論を行う場を設けることが必要です。

 

6)地域住民の視点と意見を表明する機会の確保を

地域の貴重な自然を後世に残していくために、地域住民の関与と合意形成は大切です。再生可能エネルギーへの転換は地球温暖化防止のために推進していく必要があります。地域の電力をどのように再生可能エネルギーに転換していくか、生物多様性保全や住環境の保全を考慮して、どのような場所でどのように行うかを地域内で多くの人が議論することが求められます。

 

問題が生じる可能性のある計画が浮上した場合には、できるだけ早い段階で、計画の概要を把握し、早い段階で市民が意見を述べられるような仕組みをつくることが重要です。

 

*1: IGES (2021) 生物多様性と気候変動 IPBES-IPCC 合同ワークショップ報告書:IGES による翻訳と解説. 髙橋康夫, 津高政志, 田辺清人, 橋本禅, 守分紀子, 武内和彦, 大橋祐輝, 三輪幸司, 山ノ下麻木乃, 高橋健太郎, 渡部厚志, ⿑藤修, 中村惠里子,松尾茜, 森秀行, 伊藤伸彰, 北村恵以子, 青木正人(訳・編著) . 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES), 葉山, 32p.

*2: Bennun, L., van Bochove, J., Ng, C., Fletcher, C., Wilson, D., Phair, N., Carbone, G. (2021). Mitigating biodiversity impacts associated with solar and wind energy development. Guidelines for project developers. Gland, Switzerland: IUCN and Cambridge, UK: The Biodiversity Consultancy.

 

【参考】
https://www.nacsj.or.jp/media/2023/04/35101/

 

公益財団法人 日本自然保護協会(NACS-J)

 

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