ネイチャーポジティブを日本でも進めていくために
GBFの合意までに足掛け4年の歳月を費やしました。過去10年の反省、教訓に基づく「これからのアイデア」を盛り込んだGBFを、日本自然保護協会は、国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)事務局としても追い続け、日本の関係者に発信を続けてきました。その経験から2つの指針で、これからの社会に訴えていく必要があると考えています。
1. 「変革」としてのネイチャーポジティブ
キャッチコピーのように急に現れた「ネイチャーポジティブ」という言葉ですが、もともとは、人と自然のために社会をどう変革するかという言葉を探る中で生まれたものでした。これまで、経済的な欲求から環境影響は「少なくすればよい」という行動があらゆる場面で積み重なって今の自然の損失につながっています。これからは、マイナスをゼロに近づけるだけではなく「プラス」を生み出す時代です。
法律を例にとっても、自然保護に関する法律ですら、プラスを生み出す意思を持って運用されているものはわずかではないでしょうか。
英国では、環境影響評価を通じて、事業者に、事業後プラスとなるような措置を取るよう定める環境影響評価法の改正が行われ、その運用が検討されています。日本の法律、社会や経済の仕組み含めてプラスを追求するという思いに立って自然保護運動を展開することを意識する必要があります。
2.お金、技術、人 どう拡大する?
COP15では、「自然資源を浪費している先進国は、自然資源を提供している途上国をもっと支援するべきだ」という言い回しが何度もされました。
GBFの交渉の中でも、意欲的な目標設定とその達成には、意欲的な資金・技術・能力が、保全が必要な自然豊かな地に提供され、その水準を高めていく必要があるという議論がありました(生物多様性条約では、「資源動員」というキーワードで表現)。
日本国内においても、政府や民間の資金や技術をどう高め、地域の現場で展開していくかという工夫を含めて、GBFの国内実現ということを考えることが大事です。篤志家や財団と地域の保全現場との間に立つNGOが事業をデザインすることで、より大きな資金の流れをつくるパイプラインとなる取り組みが、日本でも参考になりそうです。
今後は、日本各地で、自然を回復の道筋に乗せるための行動に意欲的な人々が先陣を切ってネイチャーポジティブ宣言のようなものを進めていくことになるでしょう。一方で、ネットゼロ(CO2排出ゼロ宣言)のように、中には宣言だけで行動につながっていない事例があることからも分かる通り、言葉だけの「ネイチャーポジティブ宣言」には注意する必要があります。
公益財団法人 日本自然保護協会(NACS-J)