(※写真はイメージです/PIXTA)

僧侶へのお礼として渡す「お布施」について、その金額に明確な決まりはありません。では「お布施の額の決定権」はいったい誰が握っているのでしょうか。『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)著者の上田二郎氏が、実際にあった事件を交えながら「葬儀関連業界の闇」を暴露します。

お布施は派遣業者へ…僧侶は単なる「決済手段」

派遣業者は施主にお布施の金額を明示し、僧侶に対してはその50~60%を上納させる契約を結ばせているようだが、全額が僧侶へ渡っていると消費者に誤認させる行為に問題はないのか。また、いったん僧侶に受け取らせてバックさせるのは、高額の手数料を隠すためとも勘ぐりたくなる。

 

少なくとも利用者は全額が僧侶に渡っていると思っているのであるから、お布施の「喜捨金」としての性格をも歪めているのは間違いないだろう。

 

僧侶にお布施の決定権がなく、派遣僧侶と施主の事後接触を禁じ、その後の回忌法要も派遣会社の許可なしにはできない契約になっているという。

 

すると僧侶が施主から頂いたお布施は、実質的に派遣会社の売上であって、僧侶は決済手段としてお布施を預かったにすぎないと見るべきだ。つまり利用者が払ったお布施が10万円なら、派遣業者が10万円の売上を計上し、支払報酬として4万円(僧侶の取り分が40%の場合)を計上することが正しい経理ではないのか。

 

そうなると派遣会社は、僧侶が利用者から受け取った10万円に対する消費税を計上し、個人僧侶に支払った報酬には源泉徴収する義務が生じる。国税当局が仏教タイムスの告発記事を読んでいれば、源泉徴収を目的に派遣業者に調査に入るだろう。すると、僧侶の取り分は派遣業者からの支払報酬として、当局に資料収集される。

 

「誰にお経を上げるか」で異なる課税の判断

僧侶に渡すお布施は非課税で税金がかからないと思っているかもしれないが、その扱いは所得税法と法人税法で異なる。

 

少しわかりづらいのだが、法人税法で寺院は「公益法人等」と区分され、「本来の宗教業務」に対して受け取るお布施(喜捨金)には法人税が課税されない。

 

しかし同じお布施であっても、寺院に所属しない個人僧侶なら非課税規程がない所得税法によって課税されてしまう。よって、僧侶派遣の報酬は、個人僧侶は課税、寺院住職なら非課税になる。

 

さらに法人税法は、収益事業を行えば一般法人と同様に課税対象になると定めている。僧侶派遣業は、取引形態から収益事業に該当する請負業だ。すると、寺院の住職が派遣僧侶の葬儀で得たお布施は課税対象となり、檀家の葬儀なら課税されないという結果になる。

 

これを住職側から見ると、まったく同じ「本来の宗教業務」の葬儀であるにもかかわらず、「誰に対するお経」かで課税と非課税が分かれるという理解しがたい問題が生じる。

 

税法研究になりそうな、蛇がとぐろを巻くような展開だが、筆者としてはたとえ派遣業者から得たお布施でも、その資金を正しく寺院会計に計上しておけば、「本来の宗教活動の一部」として課税対象にはならないものと判断している。

 

もちろん、寺院会計に派遣業者からの布施を記載しておかなければ、帳簿外の給与として重加算税を賦課され、痛い目に合うことは言うまでもない。

 

最後に、宗教界に身を置く筆者がこの記事を書いた理由は、仏教タイムスを見た国税当局が僧侶派遣業者に調査に入ると、派遣僧侶が受け取るお布施が白日の下にさらされるようになるからだ。

 

そうなれば国税が大々的に多額の申告漏れを発表し、宗教界が壊滅的な打撃を受けるかもしれない。身に覚えのある僧侶は自身の申告を再確認し、申告漏れがあるなら早急に修正してほしい。

 

 

上田 二郎

僧侶/税理士

 

※本記事は「納税通信」第3781号より抜粋・再編集したものです。

税理士の坊さんが書いた 宗教法人の税務と会計入門 第三版

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上田 二郎

国書刊行会

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