(画像はイメージです/PIXTA)

職場の一体感を奪うさまざまな「悩み」。「チャットを導入しても利用が広がらない」というのも、よくある悩みの一つです。組織開発専門家・沢渡あまね氏の著書『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている 心地よく仕事するための真・常識「リスペクティング行動」』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、チャット活用が進まない職場の問題点と解決策を見ていきましょう。

【具体例】チャットを導入しても利用が広がらない

著書『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』では、グループチャットツールの活用を随所でおすすめしています。

 

グループチャットは情報共有のハードルを大きく下げます。立ち話の内容を投稿しておいて、その場にいなかった人に理解を広げることもできる。日程調整や業務報告もチャットで関係者全員に一斉に伝えれば、情報伝達のタイムラグや不均衡、さらには誤解の余地を減らすこともできます。連絡の行き違いが減り、全員で景色を合わせて動くことができます。

 

職場でまだチャットツールを使っていない/活用が進んでいない人には、本稿を読んでいただいたこの機会に、ぜひグループチャットの活用に率先して取り組んでほしいと思います。

 

一方で、「チャットを導入したけれど、社内で利用が広がらない」なる声も大変よく耳にします。

 

グループチャットツールが役立つのはわかった。経営層の了承を得てツールを導入した。社内の各部署にチャットの活用を呼びかけた。使い方もわかりやすく周知した。それなのに利用が広がらない。結局みんな口頭や電話、メールで業務連絡をしている。ううむ。どうしたものか?

「対面でなければ、意図は伝わらない」?

チャットの活用が広がらない企業に話を聞くと、現場で次のような意見が出て、仕事の仕方がなかなか切り替わらないと言われます。

 

「チャットでは意図が正しく伝わらない。やっぱり仕事の連絡は対面じゃないとダメ」

 

「欠勤の連絡をチャットで済ませようとするのはいかがなものか。電話をかけるか、メールで丁寧に伝えるべきではないか」

 

「部長は忙しくて、チャットを確認している時間がない。口頭で言わないと話が進まない」

 

従来のやり方が定着していて、報告・連絡・相談をチャットに切り替えるのが難しい。ツール導入の担当者が「オープンなコミュニケーションをしましょう」と呼びかけても、現場はシーンと静まりかえっている。この種のすれ違いは、さまざまな職場で見られます。

チャットに「お作法」を求める人も…

社員がチャットを使い始めたものの、いろいろな「お作法」が誕生してしまって、コミュニケーションが活性化しないなる悩みもよく聞きます。

 

例えば、複数名にメンションをつけてチャットを送るときに、職位順に名前を記載しなければいけない。「部長」「課長」「係長」などの職位の記載もれもあってはいけない。さらに文章の「てにをは」にも完璧が求められる。緊急事態だからと考えてスピード優先で情報を共有したのに、「課長と書きなさい」「『を』が抜けている」と指摘が入る。作法が違うと言われ、揚げ足をとられてしまうのです。

 

これは手紙の文化を、チャットにそのまま当てはめてしまうようなものです。文頭はこう書き出して、時候の挨拶を入れ、末尾はこうまとめる。お相手の名前はここ、自分の名前はここ。すべてを完璧に整えてからでなければ、投稿してはいけない。そういう「お作法」をつくってしまっているのです。

 

しかしチャットのメリットは早さと広さです。情報を素早く、オープンに伝えられる。お手紙文化に起因する、雅な「お作法」は、その特性を無力化してしまいます。

【解決策】トップが率先して新しいツールを使う

チャットツールの利用が広がらないときには、見本・手本を示しましょう。導入の担当者が積極的に使って見せるのもよいですが、より効果的な方法があります。トップが率先して新しいツールを使う。

 

社長や役員、部門長がチャットを使って、スピーディーかつオープンなコミュニケーションを日常的におこなうようにします。例えば社長が役員に対して、チャットで一言で連絡をする。役員はその投稿にスタンプで返答する。業務連絡が一瞬で終わる様子を、社員に見本として示すのです。

 

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社長「来期の計画、金曜までに提出してください。よろしくお願いします!」

 

役員「(了解のスタンプ)」

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社長に対して役員がコメントを返し、自由闊達に意見交換するところを見せるのもよいでしょう。2人の対話がオープンな場でテンポよく進行する様子を見れば、社員たちはチャットの特性を実感できるのではないでしょうか。

 

「てにをは」が間違ったり抜けたりしていても気にしない。「間違いがあってはいけない」と考える無謬性神話からの脱却を、トップが率先して見せる。そのような姿勢で、窮屈なコミュニケーション作法から社員たちを正しく解放していきましょう。

 

<事例紹介:チャットで毎朝、雑談を投稿した部門長>

「見本を示す」意味で、よい事例を紹介します。

 

ある企業でチャットツールの利用が広がらず、部門長が悩んでいました。メンバーのチャットへの反応が鈍く、ほとんどの人が投稿もしなかったそうです。そこで部門長は、自分が率先してチャットを使い始めました。

 

部門長は毎朝1つ、チャットで雑談を投稿したそうです。誰もコメントを書かないツール上で、毎日投稿を続けました。最初のうちは反応もなかったそうですが、書き続けているうちに、スタンプやコメントがつくようになりました。チャットを使う習慣が、チーム内に少しずつ浸透していった。そして1年後には、チームのメンバーもチャットを使うようになったそうです。

 

その間、部門長がメンバーに「チャットを使いなさい」と強く指示することはありませんでした。それよりも、チャット利用のハードルを下げるように心がけたそうです。だから雑談からスタートした。「この場では気軽にコメントをしてもいいんだよ」と、身をもって示したわけです。

 

<事例紹介:社長と役員が質問にチャットで返答>

事例をもう1つ紹介します。ある企業では社長と役員が、社員からの質問にチャットで返答する取り組みを実施しました。口頭での質問やメールでの問い合わせに、関係者全員が閲覧できるチャット上で返答する。相手に「チャットで返答します」と伝えた上で、チャットツールに回答を書き込むのです。

 

社員はまた次の日には口頭で聞いてきます。それでもしつこくチャットで返す。その会社では、社長と役員が取り組みを継続した結果、チャット利用者の割合が2〜3割から8〜9割に増えたそうです。

 

利用者の割合が増えると、様子を見ていた人もチャットツールを使うようになります。別のある大企業では人事担当者が各部署のチャット利用率を会議でしつこく報告し続けています。「この部署では活用が進んでいます」「この部署は遅い」と数値を見せて公表した。そうすると、隣を見て危機感を抱くチームも出てきたそうです。

 

外部から講師を招いて、社内で学習会を開くのもよいと思います。チャットを使ったコミュニケーションの重要性、具体的な使い方や進め方、他社の事例などを専門家に語ってもらう。それによってチャットを活用したオープンなコミュニケーション風土の醸成を図っていきます。

 

 

沢渡 あまね

作家/ワークスタイル&組織開発専門家、『組織変革Lab』主宰

 

400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。著書『新時代を生き抜く越境思考』『うちの職場がムリすぎる。』『職場の問題地図』ほか。#ダム際ワーキング推進者。

 

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※本連載は、沢渡あまね氏の著書『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている 心地よく仕事するための真・常識「リスペクティング行動」

悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている 心地よく仕事するための真・常識「リスペクティング行動」

沢渡 あまね

日本能率協会マネジメントセンター

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