マネージャー「こういうわけだから、みんなに言っておいて」←この指示出しを続けた“末路”【組織開発専門家が解説】

マネージャー「こういうわけだから、みんなに言っておいて」←この指示出しを続けた“末路”【組織開発専門家が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

日々のちょっとした発言や行動の中で、相手にリスペクト(敬意)を伝える。その積み重ねがあるかどうかが、組織の一体感に大きく影響してきます。組織開発専門家・沢渡あまね氏の著書『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、職場の一体感を奪うコミュニケーションの具体例とその解決策を紹介します。

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【具体例】一部の人にだけ指示をしている

世の中には、マネージャーが一部の人だけを呼びつけて、指示を出している職場があります。チームのメンバーも全員同じフロアにいるのに、その人たちには語りかけない。次のような形で中心メンバーにだけ話をして、あとは任せてしまうのです。

 

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マネージャー「そういうわけだから」

 

中心メンバー「はい、わかりました」

 

マネージャー「あとは君からみんなに言っておいて」

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いかがでしょう。みなさんの職場で、このようなやりとりがおこなわれていませんか?

事情があれば、相手を限定してもかまわないが…

もちろん内容によっては、このようなコミュニケーションをとることもあります。

 

例えば管理職限りなどの秘匿情報や、個人のプライバシーにかかわるセンシティブな情報を取り扱うときには、メンバーを絞ってやりとりするでしょう。セキュリティルールなどを勘案した上で、情報共有する相手を厳密に選定しなければいけない。その判断には合理性があります。

 

段階を分けて指示を出したい場合もあるでしょう。マネージャーから中心メンバーに案件の概要を伝え、その後の細かい作業の分担は、中心メンバーに任せたい。情報を段階的かつ効率的に広げていく形です。マネージャーが多数の案件を抱えていて、すべてをくわしく説明できない状況であれば、そのようなコミュニケーションもあり得ます。

理由もなく人を区別するのはよくない

事情があって一部のメンバーにだけ話すのはよいのですが、チーム全体に対する情報共有において、特に理由もないのにメンバーを区別するのは、よい判断ではありません。「この人には話す」「この人には話さない」という基準を設けていると、それがチーム内の距離感になっていく場合もあります。

 

仕事の指示が「伝言ゲーム」で伝わっていく。重要事項も仕様の変更も、マネージャーの口から直接説明されることはない。すべては口伝えによる人づての情報でもって共有される。例えば仕様の変更があったときに、中心メンバー以外は意見を言うことさえできない。すでに決定された内容を後で聞かされるだけ。

 

そのような職場では、メンバーたちは「自分は蚊帳の外なんだな」という気持ちになってしまうのではないでしょうか。それではチームに一体感は生まれない。メンバーの主体性も生まれにくい。これは、チームメンバーへのリスペクトを欠いている状態ともとらえられます。

 

そのままでは、メンバーの心はマネージャーから離れていくでしょう。マネージャーからの期待や信頼を感じられない。メンバーの、チームに対するエンゲージメントが下がっていく可能性が高いです。

【解決策】情報を一斉共有する

このケースの対策はシンプルです。チーム全体にかかわる情報で、特に相手を限定する必要のない場合は、チームの全員に一斉共有する。

 

Microsoft TeamsやSlackのようなビジネスチャットツールを使っている場合には、チームの全員が見ているチャンネルに投稿します。チーム内のAさんに指示を出したい場合でも、個別にダイレクトメッセージを送るのではなく、Aさん宛ての内容を(Aさんにメンションをつけて)チームのチャンネルに投稿する。そうすれば、その案件について何がおこなわれているのか、チーム全員がわかりますよね。誰も蚊帳の外に置かずに、仕事を進めていけるのです。

 

ただし、個別に話したほうがよいケースもあります。例えば個人に対して厳しい指摘をする必要がある場合、相手が周囲に知られたくないであろうプライベートな話をする場合。そのときは個別に連絡をとりましょう。

一斉共有することで得られる「意外な気づき」

なんでもかんでも伝言ゲームによる順次の情報共有や、個別の情報共有でものごとを進めていたら、メンバー間に差が生まれます。伝達スピードの差、情報量の差です。誰かが「あの人は知っているのに自分は知らない」「不当に扱われている」と感じるような環境にもなりやすい。

 

また、仕事の属人化を招く懸念も生じます。逐次情報を受け取って共有するマネージャーやリーダーの労力やコミュニケーションコストも増える一方です。チーム全体が必要としている情報は、なるべく全員に一斉共有しましょう。

 

何事も全体共有していると、思わぬ気づきやメリットが得られる場合があります。例えば「その仕事に関係ないと思っていた人が、じつは見えないところで関係していて素早く動いてくれた」「意外な人が、前職時代の経験を書き込んでくれた」といった出来事が起こったりします。思いがけない、人との出会い、知識との出会い、意欲との出会いが生まれます。これを「偶然の出会い」といいます。

 

チームに眠っている価値を掘り起こす意味でも、チームに偶然の出会いをもたらす意味でも、情報はなるべくオープンに共有しましょう。

対面で伝える場合には、態度にも気を配る

会議などで対面で情報を伝える場合には、その場にいない人にも極力同じタイミングで内容を伝えるようにしましょう。その場合もチャットツールが役立ちます。議事などをグループチャットに書き込みながら会議を進めれば、その場にいない人でも内容をすぐに知ることができます。

 

対面の場で話すときには、仕草や態度にも気を配りたいところです。全員に話しているつもりでも、特定の相手にばかり目線を向けていたら、メンバー間に温度差が生じるかもしれません。全員の顔を見るイメージで話しましょう。もちろん、広い会場で大人数に語りかけるときは別ですが、チーム単位の会議であれば、一人ひとりに視線を向けながら話してください。

一斉共有すれば結束力が強くなり、トラブル対応が早くなる

情報の一斉共有を心がけているチームは、結束力が強いです。トラブルなどが発生したときにそれが如実に表れます。

 

私がIT企業に勤務していた頃のエピソードを1つ。ITの世界ではいわゆる企業混成チームでプロジェクトやチームを組んで仕事を進めることがよくあります。そのような混成チームにおいて、いわゆるプロパー(発注元の企業の社員)だけで物事を決め、それを一部の人にしか共有しないやり方をしていては(あるいは一次請け⇒二次請け⇒三次請けのように順次共有していては)、組織の動きが鈍くなります。システムのどこかにトラブルが発生したとき、初動が遅れることも。

 

普段から情報をフラットに共有しているチームは動きが早い。所属会社や職位に関係なく、全員をプロジェクトの仲間としてとらえ、情報をすみやかに共有しているチームは、トラブル時の対応が早い。グループチャットはもちろん、対策室のような空間に情報を集めて、一斉共有する。チームの全員が「いま何が起きているのか」を理解しながら動くので、初動も、その後の展開も早いです。

 

情報を順次共有するスタイルでは、「待ちの時間」も発生してしまい行動のロスを生むのはもちろん、悪気なく「指示待ち」の姿勢を育んでしまいます。もちろん、会社対会社の契約形態に応じた指示の仕方、情報伝達の仕方には配慮が必要ですが、業務遂行上に必要な情報はなるべく一斉共有する。その工夫を重ねていきたいものです。

 

重要な情報も共有して、広く協力を求めるようにすれば、その仕事に対して主体性や当事者意識を持つ人も増えます。自分から「この仕事、私が担当しましょうか?」と手を挙げる人が出てくることもあります。

【ポイント】メンバーを一人のプロとしてリスペクトする

チームのメンバーを理由なく区別して、ある人には情報を与え、別の人には与えないのは、一人ひとりをプロとしてリスペクトしていない証拠でもあります。そのままでは、チームに一体感は生まれません。

 

全員を一人のプロとして認め、情報を一斉共有して、敬意を示しましょう。一人ひとりを信頼して業務を任せれば、きっとメンバーはその期待に応えてくれるはずです。

 

 

沢渡 あまね

作家/ワークスタイル&組織開発専門家、『組織変革Lab』主宰

 

400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。著書『新時代を生き抜く越境思考』『うちの職場がムリすぎる。』『職場の問題地図』ほか。#ダム際ワーキング推進者。

 

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※本連載は、沢渡あまね氏の著書『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている 心地よく仕事するための真・常識「リスペクティング行動」

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沢渡 あまね

日本能率協会マネジメントセンター

【「なんでうちの職場は機能していないの?」を解消するには、リスペクトの醸成が必要だった!】 同調圧力/減点主義/厳しく指摘する/上下関係/つぶし合う/皆で仲良く苦しむ(ゆえに深夜残業に付き合わされるといったこ…

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