「部下が指示通りに動かない」「言われたことしかやらない」と思っている上司が見落としている“本質”

「部下が指示通りに動かない」「言われたことしかやらない」と思っている上司が見落としている“本質”
(画像はイメージです/PIXTA)

日々のちょっとした発言や行動の中で、相手にリスペクト(敬意)を伝える。その積み重ねがあるかどうかが、組織の一体感に大きく影響してきます。組織開発専門家・沢渡あまね氏の著書『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、職場の一体感を奪うコミュニケーションの具体例とその解決策を紹介します。 今回は「期待した成果が出てこない」ケースについて見ていきましょう。

<前回記事>いきなり電話をするのは「失礼」…「営業はテレアポしてなんぼ」の会社が知らない“新常識”【組織開発専門家が解説】

依頼内容が通らず、作業のやり直しや手戻りが繰り返される

マネージャーとメンバーのすれ違い。マネージャーの期待する成果が出てこない。メンバーのやっている作業が微妙にずれている。結果としてやり直しになる。「手戻り」が起こってしまうパターンです。

 

例えば次のような形で話がすれ違い、依頼し直し、作業のやり直しが発生します。

 

----------------------------------

~週初めのミーティング~

マネージャー「〇〇社への提案資料、今週中につくってください」

 

メンバー「わかりました。木曜日に提出します。ご確認お願いします。修正があれば金曜日に対応します」

 

マネージャー「了解です。チャットで送っておいてください」

----------------------------------

 

----------------------------------

~木曜日のチャット~

メンバー「〇〇社への提案資料を作成しました。ご確認ください。よろしくお願いします」

 

マネージャー「ありがとう。確認しました。この内容だと、先方からのお問い合わせに回答できていません。認識のすり合わせをしましょう。今日、通話できますか? 〇時はどうでしょう?」

 

メンバー「承知しました。〇時からお願いします。お手数おかけして申し訳ありません」

----------------------------------

 

いかがでしょう。みなさんの職場では、このような手戻りは起きていませんか?

 

マネージャーはきちんと依頼をしたつもりなのに、メンバーにうまく伝わっていない。結果として、もう一度依頼をするはめに。1回で済むはずの依頼、1回で済むはずの作業が、二度、三度かかる。

「指示しかしていない」が問題

手戻りの発生にはさまざまな要因がありますが、この例の場合、依頼の仕方に改善の余地があるかもしれません。

 

マネージャーはメンバーに作業の依頼をしています。しかし、指示しかしていません。仕事の背景や目的などを説明せず、指示だけをしている。それでは、メンバーが本来の目的と異なる方向に作業を進める可能性があります。「なんのための提案資料か」がわかっているかどうかで、作業の内容や質は変わります。

 

単純な指示で必要事項がすべて伝わるのなら、それでもよいでしょう。定期業務で、目的などはすでに共有できている場合もあります。また、背景などを考えなくても十分に進められる仕事もあると思います。

 

しかし、手戻りが発生するとしたら、背景や目的などを丁寧に説明したほうがよいでしょう。マネージャーは仕事の依頼の仕方を、メンバーは受け方をそれぞれ見直しましょう。

「指示だけマネジメント」は「指示待ち人間」を生む

簡素な指示があってもよいのですが、注意が必要です。「作業を指示するだけ」のマネジメントには、相手を「作業者」扱いする危険性があります。「あなたはこの作業だけ、やっておいてください」なる一方的なメッセージになりかねない。その裏には「あなたは細かいところまで考えなくてよいので」の意図が見え隠れします。依頼する本人にそのつもりがなくても、それが繰り返されるうちにマネージャーとメンバーの関係が、指示者と作業者の関係性になってしまうのです。

 

そのような関係性になると、メンバーは「やらされ感」を募らせます。お互いに悪気はないのに、結果として「やっつけ仕事」で対応されたりもする。さらに、そのやりとりを見ているメンバーたちにも下請けマインドが醸成され、「自分たちは指示を受けて作業をすればいい」態度になっていく。こうして、「指示待ち人間」が量産されてしまいます。

【解決策】「仕事の5つの要素」を一緒に確認する

では、どうすればよいのか。

 

私は、仕事を依頼するとき(依頼者側)/受けるとき(受け側)、「『仕事の5つの要素』でもって要件を一緒に確認しましょう。依頼内容の抜けもれやズレを補正しましょう」とお話しています。この考え方を経営方針に取り入れ、全社で実践している企業もあります。誰でもすぐに活用できる方法です。みなさんもぜひ試してみてください。

 

仕事の5つの要素とは、こちらです(図表1)。

 

出所:沢渡あまね著『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)
[図表1]仕事の5つの要素 出所:沢渡あまね著『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)

 

仕事を頼むときや受けるときには、この図を指さしながら、背景や目的を一緒に確認していきます。マネージャーは案件の目的や関係者などを伝える。メンバーは不明点があれば質問する。この図を使って、仕事の景色を合わせるわけです。

 

この図は新たな仕事をスタートするときだけではなく、すでに着手済の仕事でズレや違和感を覚えたときにも使えます。「目的や成果をあらためて確認したいです」と声を挙げ、図を見ながらミーティングをする。こうして認識ズレや、当初の前提との変化がないかなどお互いに確認しながら仕事を進めれば、悲しいすれ違いや回り道はなくなります。

 

■5つの要素は、からみ合っている

5つの要素を説明していきましょう。

 

仕事とは、①目的に向け、②インプット、つまり参考情報やデータ、原材料などをもとにして、③成果物を生み出す行為です。その行為には④関係者が存在します。そして⑤効率が求められる(あるいは目標となる期限や歩留まりなどがあったほうがよい)。この5点を確認しながら作業を進めれば、業務の方向性が大きくズレてしまう可能性は減ります。

 

インプットは足りているのか。足りないデータがあれば、関係者に問い合わせて提供してもらう必要があります。なんのための仕事(①目的)、誰のための仕事(④関係者)を考えると、不足しているインプットが見えてくる場合もある。5つの要素はからみ合っています。だからこそ、図式化して全体像を見ながら話し合ってほしいです。

 

必要な成果物を考えるときにも、目的や関係者の確認が欠かせません。なんのため、誰のための成果物なのか。それらを踏まえて作業の完了状態を考えます。

 

場合によっては、外部の人も巻き込まなければいけない。インプットや目的、成果物に関連して、関係者が増えていくときもあります。

 

とはいえその仕事に使う時間は限られています。すなわち、効率を意識したい。期限はいつか? 3日かけてよい仕事なのか、それとも1日〜2日で済ませなければいけないのか。手戻りが発生する可能性はあるのか。回を重ねれば業務効率化できる仕事なのか。

 

図を活用すると、仕事にまつわるさまざまな疑問、懸念を整理できるようになっていきます。ぜひ試してみてください。

「5つの要素」を話し合うようになると…

■「悲しいすれ違い」がなくなる

図を見ながら5つの要素を話し合い、決定事項を書き出していくと、見落としがちだった点も気づきやすくなります。また、お互いの認識のズレを補正できる。「言わなくてもわかるだろう」と考えて、確認しないで作業を進めて後で手戻り、振り出しに戻る。そのような悲しい景色をなくすことができます。

 

■フラットな関係を築きやすくなる

マネージャーがメンバーに指示だけを出すマネジメントは、チーム内に下請け関係を築いてしまいがちです。「5つの要素」の図を使って、一緒に景色を合わせる経験を積み重ねれば、マネージャーとメンバーの関係がフラットになっていきます(図表2)。

 

1つの図を見ながら「成果物はこうしたほうがいいのでは」と対等な話し合いを進めていくと、お互いの関係性が変化します。「同じゴールを目指して、成果を共につくっていく」仲間意識が芽生え、相手との関係がフラットになっていきます。

 

図の活用に慣れてくると、日常的なコミュニケーションでも、メンバーが息を吐くように自然に「この仕事に必要なインプットってありますか?」と質問するようになったりします。マネージャーも「このデータ、渡しておくね」と、前のめりで情報を共有できるようになります。

 

出所:沢渡あまね著『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)
[図表2]関係性の変化 出所:沢渡あまね著『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)

 

これはチームのマネージャーとメンバーのみならず、部署間、あるいはお取引先や顧客など社外の人と仕事を進める上でも有効です。フラットな関係で、お互いをリスペクトしながら気持ちよく仕事を進めていきたいものです。

 

■メンバーが「指示待ち」にならず、主体性を持つ

「5つの要素」を使って仕事の全体像を確認する習慣がつくと、チームにはさまざまな変化が起こります。例えば、メンバーが次の工程をイメージし、先回りして行動するような場面も出てきます。

 

「この資料って、課長が確認するだけではなくて、お客様もご覧になるものですよね」

 

「であれば、こういうデータも入れたほうがお客様にとって親切だと思います」

 

「〇〇さんに相談して、最新の数字を提供してもらいます」

 

このように、メンバーが「指示待ち」から抜け出し、主体性を発揮して前向きなアクションをとれるようになる場合があります。

多忙な管理職こそ、5つの要素でコミュニケーションする習慣を

マネージャーやリーダーの中には、メンバーからの相談に答える仕事が多くて、自分自身の仕事になかなか取り組めないという人もいるでしょう。「自分の仕事に着手できるのは、いつも夕方になってから」。そんな管理職もいるのではないでしょうか。そのような多忙な人にこそ、5つの要素でメンバーとコミュニケーションしてほしいと思います。

 

仕事を5つの要素に分解しながら確認する習慣をつけると、メンバーの頭の中にインプットや目的、成果物などのバリエーションやノウハウが蓄積します。そうすると、細かな指示を受けなくても、目的や成果物のパターンなどを想定できるようになる。メンバーのほうから「今回の仕事の目的から想定するに、こんな成果物イメージでよいでしょうか?」と、先回りした提案が出てくるようになります。

 

マネージャーやリーダーはそこに差分や自分の考えを載せていく。この繰り返しで、無駄なコミュニケーションコストを減らしつつ、仕事のスピードも質も高めていくことができます。

メンバーが成功も失敗も共有できるように

マネージャーとメンバーとの関係がフラットになり、メンバーの主体的な行動が習慣化すると、小さな成功も失敗も、タイムリーに情報共有されるようになっていきます。ミスが早く報告されるため、マネージャーはチーム内に問題が起こったとき、すぐに対処できます。

 

あるいはマネージャーが不在でも、メンバー同士が自律的に連携して解決できるようになります。景色を合わせて仕事を進める習慣は、組織のリスクマネジメントにもつながるのです。

 

それとは反対に完全な上下関係で、マネージャーがいつもメンバーに対して高圧的な態度をとっていたとしたら、メンバーは失敗を言い出しにくくなります。「間違えました」と報告したら、猛烈に怒られてしまう。それではメンバーもミスを隠そうとするでしょう。

 

私も若い頃、高圧的なマネージャーの下で仕事をしていた時期がありました。当時は弱みを見せたくないと思っていました。少しでも落ち度を見せようものなら、苛烈な叱責を受ける。あるいはバカにされる。よって、ちょっとしたミスは自分で処理したり、関係者に「ここだけの話にして!」と口裏を合わせてなかったことにした経験もあります。

 

「問題を表面化させたくない」動機づけが働いてしまっていたのです。上下関係の文化、失敗を許さない文化では、成功しか報告されなくなる。それは危険な状態です。

 

チーム内にフラットな関係が生まれれば、成功も失敗も共有されるようになる。ミスをしても共有できる環境にいれば、メンバーは安心してさまざまな仕事にチャレンジできる。

 

イノベーターはよく言います。成功は多産多死の延長線上にある。たくさん挑戦して、小さな成功や失敗を積み重ねていった先に、大成功するチャンスがある。健全にチャレンジを続けるためには、失敗を許容する文化が欠かせないのです。イノベーションを生み出すためにも、マネージャーはメンバーとの間にフラットな関係を築いていきましょう。

【ポイント】メンバーを作業者ではなくプロとして見る

このケースのポイントは広義に述べれば、相手や相手の仕事に対するリスペクトを持てるかどうかです。1つひとつの仕事をリスペクトし、丁寧に情報共有する。メンバーを「作業者」あるいは「未熟者」扱いせず、一人のプロとして接する姿勢でもあります。

 

指示ではなく依頼する相手をプロとしてリスペクトしているからこそ、インプットや目的などを積極的に開示し、なおかつ一緒に確認する。フラットな関係を築き、お互いに一人のプロとして力を尽くす。そのようなマネジメントやコミュニケーションを心がけると、メンバーが主体性や創造性を発揮しやすくなります。

 

繰り返しになりますが、それはチーム内のメンバーに対してのみならず、上長、他部署の人たち、お取引先や顧客などに対しても当てはまります。

 

なぜ、相手の目線が上がらないのか? それはあなたが相手の目線を下げさせているからかもしれません。

 

なぜ、相手が受け身なのか? それはあなたが相手を下請け扱いしているからかもしれません。

 

なぜ、相手は報告しないのか? それはあなたが相手を委縮させているからかもしれません。

 

 

沢渡 あまね

作家/ワークスタイル&組織開発専門家、『組織変革Lab』主宰

 

400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。著書『新時代を生き抜く越境思考』『うちの職場がムリすぎる。』『職場の問題地図』ほか。#ダム際ワーキング推進者。

 

《最新のDX動向・人気記事・セミナー情報をお届け!》
≫≫≫DXナビ メルマガ登録はこちら

※本連載は、沢渡あまね氏の著書『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている 心地よく仕事するための真・常識「リスペクティング行動」

悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている 心地よく仕事するための真・常識「リスペクティング行動」

沢渡 あまね

日本能率協会マネジメントセンター

【「なんでうちの職場は機能していないの?」を解消するには、リスペクトの醸成が必要だった!】 同調圧力/減点主義/厳しく指摘する/上下関係/つぶし合う/皆で仲良く苦しむ(ゆえに深夜残業に付き合わされるといったこ…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録