いきなり電話をするのは「失礼」…「営業はテレアポしてなんぼ」の会社が知らない“新常識”【組織開発専門家が解説】

いきなり電話をするのは「失礼」…「営業はテレアポしてなんぼ」の会社が知らない“新常識”【組織開発専門家が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

日々のちょっとした発言や行動の中で、相手にリスペクト(敬意)を伝える。その積み重ねがあるかどうかが、組織の一体感に大きく影響してきます。前回の記事では、職場の一体感を奪う悩みとして「チャットを導入しても利用が広がらない」という問題とその解決策を紹介しましたが、この悩みには“背中合わせとなる課題”があります。組織開発専門家・沢渡あまね氏の著書『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

<前回記事>【本末転倒】せっかくチャットツールを導入したのに…「欠勤連絡をチャットで済ませるな」←こういう発想

「電話でアポをとる」のが営業?

「チャットの利用が広がらない」と背中合わせの課題があります。電話の利用がなかなか減らない。従来のやり方からの切り替えが進まない問題です。

 

例えばテレアポが主流の職場。テレアポが必ずしも悪いとはいいませんが、社員が顧客に何度も電話をかけてアポイントをとろうとしていて、しかし効果が出ない。それはやり方に問題があるといえるのではないでしょうか。「営業はテレアポしてなんぼ」なる考え方が、組織の当たり前になっている。そして、なかば慣習のように電話を使い続ける。

 

いまはメールやチャットでコミュニケーションをとる企業もあります。むしろ、そういう企業のほうが増えてきているかもしれない。そのタイプの企業相手には、電話ではむしろ連絡がとりづらい場合もあるでしょう。

 

そのような企業や担当者相手に、いきなり電話をするのは「失礼」以外の何物でもありません。現に「電話営業お断り」を明示していて、電話をかけてくる企業の製品やサービスの利用はしない企業や部署も存在します(ちなみに当社も電話対応はおこなっていません。全員パラレルキャリア、全員フルリモートワークで、働く時間もバラバラですし、私も常に執筆や顧問活動などをしていますから電話に出られない)。

 

自社の常識と他社の常識の間にギャップが生じていて、従来の連絡手段では仕事がうまく回らなくなっている。そのような現場を目にすることがあります。

電話は「相手の集中力を奪うもの」。電話に対する意識の変化

誰かに電話をかけるのは、自分の都合のよいタイミングで相手に突然話しかける行為です。話し手の都合で、コミュニケーションを始めています。

 

相手は突然、思考や作業を中断されます。心の準備をしていない状態で、急にその用件について、考えたり判断したりしなければいけなくなる。それでは十分に検討できないかもしれません。また、例えば作業中・運転中に電話がかかってきたら、思わぬミスや事故が誘発される可能性もあります。

 

かつて、大多数の人が同じ場所に集まり、対面での会話や電話を中心としてコミュニケーションをとっていた時代には、急に電話をかけてもネガティブな反応をされる場面は少なかったでしょう。

 

しかし先ほども述べた通り、いまはメールやチャットがコミュニケーション手段の主力になりつつある。リモートワークなども普及し、常にその場所に相手がいるとは限らない。そのような組織や人は「電話は緊急時に使うもの」「電話はすでに信頼関係を築いた相手とのみ、事前合意の上で使うもの」と考えていたりもします。

 

約束した時刻にお取引先の担当者が現れない。事故があったのかもしれない。その場合には相手の携帯電話に電話をかけ、安否を確認します。しかしその後、無事に会って取引ができたら、そのお礼はメールやチャットで伝える。何もかも電話で話すのではなく、さまざまな手段を使い分ける。そのような文化にも慣れていきましょう。

電話の使い方が変わりつつある

事前に相手と合意していれば、電話は有効な手段でしょう。「この案件は話したほうが早いですね。明日の11時に電話してもいいですか?」と聞いて、了承を得ておく。メールやチャットを使っている企業では多くの場合、電話やビデオ通話をそのような形で利用しているように感じます。ミーティングと同じような形です。事前に約束した上で実施する。

 

もしもみなさんのお取引先がそのような環境になっているのなら、その企業に突然電話をかけるのは、アポなしで急に会いにいくようなものかもしれません。約束もしていないのに突然訪問したら、相手は戸惑います。すぐには対応できない。そもそも、関係者が席を外している場合もあるでしょう。

 

「いきなり電話をかける」やり方はいま、そのような古い仕事のやり方になりつつあります。みなさんの組織はどうでしょうか。お取引先に急に電話をかけて、相手を困らせてしまった経験はありませんか? もしも心当たりがあるのなら、電話の使い方を見直す機会かもしれません。

【解決策】「チャットを使ってよかった」体験を増やす

長い間培ってきたやり方を切り替えるのは簡単ではないと思います。「電話営業」で成果を出してきた人は、その武器を手放すのに抵抗を感じるでしょう。

 

「もう電話を使うのはやめましょう」

「〇〇さんも、そろそろチャットを使ってください」

 

このような言い方では、誰も次の一歩を気持ちよく踏み出せません。電話からチャットへの切り替えを進めるためには、「新しいツールを使ってみてよかった」と感じる体験をいかに増やしていくかがポイント。最近のITツールは、人に優しいです。ITツールは怖くない。それを社内のメンバーに経験してもらいましょう。

 

スマートフォンを初めて手にしたときを思い出してみてください。最初のうちは使い方がわからなかったかもしれません。でも写真や動画を撮ったり、それを家族や友人と一緒に見たりしているうちに、使い方は少しずつ身についていったのではないでしょうか。

 

それと同じです。チャットを使うと、相手に連絡がつきやすい。アポイントも簡単にとれる。資料の事前共有にも手間がかからない。思わぬ、第三のキーパーソンに情報を共有してもらいやすい、なんならメンション機能1つでその人を巻き込んでくれる。このような、よい経験を積み重ねていきましょう。チャットを使って気持ちよくなる体験を重ねていく。そうすれば、電話からチャットへの切り替えも進みやすくなるはずです。

【事例紹介】iPadの導入に成功した道路整備の現場

ツールの切り替え、手段の切り替えに成功した事例を紹介しましょう。

 

■「使えるわけがない」猛反発するメンバーの心理的ハードルを下げた“ひと言”

ある道路メンテナンスの企業の例です。その企業は、高速道路のサービスエリアやパーキングエリアの清掃、設備管理などをおこなっています。平均年齢が50歳を超えている、ベテランメンバーの多い企業です。

 

以前は、清掃やメンテナンスの作業完了報告をすべて手書きでおこなっていました。お客さんの忘れ物を見つけたときには、それも手書きで伝達していました。しかしそれでは作業効率がよくないという話になり、現場にiPadを導入して、連絡手段をITアプリケーションに変更しました。最初はメンバーから猛反発があったそうです。「新しいITツールなんて使えるわけがない」「パソコンだって使いこなせないのに」。そう言われて、ITツールの担当者はどう答えたか。

 

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担当者「たしかに、最初は大変かもしれません。でもみなさん、銀行のATMでお金をおろしますよね」

 

メンバー「おろしますよ。孫にお小遣いをあげるときに使います」

 

担当者「それと同じようなものなんです」

 

メンバー「えっ? そうなの?」

 

担当者「使っていたら、案外簡単にできますよ。私もサポートします」

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このように対応したら、メンバーの心のハードルが下がったそうです。そして実際に使い出してみると、現場の業務はかなりスリムになった。

 

例えばサービスエリアに忘れ物があったときに、以前は「どこどこに黄色のポーチがあった」と電話や文章で事務所に伝えて、その後も問い合わせがあるたびに電話で話しながら該当のものかどうかを調べていました。スタッフ同士で「報告書に黄色のポーチと書いてあるけど、オレンジ色のバッグではないですか?」「どうだろう? ちょっと実物を確認してきます」といった問答を繰り広げながら対応していたわけです。

 

ツールを使い始めたら、その作業が簡略化されました。忘れ物の写真を撮って、チャットに投稿しておく。お客様から問い合わせがあったら、オペレーターはその写真を見て回答する。写真のデータには時間や位置の情報も含まれています。データを見れば、いつどこで撮影されたものなのかがわかる。オペレーターはスタッフにいちいち質問しなくても、問い合わせに対応できるようになりました。

 

伝言ゲームをする必要がなくなり、本来の業務に集中できるようになった。問い合わせ対応の質も、お客様満足度も上がりました。さらには、スタッフが自己効力感を得られるようにもなりました。それによって、ツールの導入が加速したそうです。

【ポイント】「相手の時間の使い方」へのリスペクト

作業に集中しているとき、急に話しかけられるのは嫌なものです。ペースが乱れます。一人ひとり、それぞれのペースで時間と集中力を使っています。自分の時間の使い方と、他者の時間の使い方は違う。それぞれを尊重しながらコミュニケーションをとりましょう。

 

チャットツールを活用すれば、お互いに自分のペースで連絡や報告を上げながら、情報共有できるようになります。最近のITツールは使いやすくできています。ATMと同じようなものです。過度に怖がらないで、使ってみてほしいと思います。

 

 

沢渡 あまね

作家/ワークスタイル&組織開発専門家、『組織変革Lab』主宰

 

400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。著書『新時代を生き抜く越境思考』『うちの職場がムリすぎる。』『職場の問題地図』ほか。#ダム際ワーキング推進者。

 

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※本連載は、沢渡あまね氏の著書『悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

悪気のないその一言が、職場の一体感を奪っている 心地よく仕事するための真・常識「リスペクティング行動」

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沢渡 あまね

日本能率協会マネジメントセンター

【「なんでうちの職場は機能していないの?」を解消するには、リスペクトの醸成が必要だった!】 同調圧力/減点主義/厳しく指摘する/上下関係/つぶし合う/皆で仲良く苦しむ(ゆえに深夜残業に付き合わされるといったこ…

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