「社会の問題解決」「差別化」という視点の重要性
前回の続きである。
連載第2回のようにFinTech を広く捉えると、そこに含まれる事業は実に多岐にわたる。そして、それらの事業に適用される法規制は決済、証券、保険といったそれらが属する事業分野に応じて大きく異なるため、それらを分類するにあたっては、事業分野の切り口によるのがまず第1であり、本書『FinTechビジネスと法 25講』の第5講以降の各講もこういった切り口から論じる。
一方で、ある技術についてそれがどのようにビジネスに利用できるのかを検討する場合、あるいは、実際にビジネスを構築し、また、ビジネスを評価する場合には、事業分野という切り口よりもむしろ、それらの技術やビジネスがどういったアプローチで社会の問題を解決し、また、差別化を打ち出せるのか、という視点も重要であると思われる。
そこで、本講ではそういった課題解決アプローチからの分類でFinTechを概観し(図表1)、それぞれに該当すると思われるビジネスのいくつかの例を挙げ、法的論点となり得る部分を概括的に挙げてみたい。
もちろん、個々のビジネスモデルにはさまざまな要素が含まれているためここでの分類は相互に排他的なものではなく、また、課題解決アプローチからの分類としてもさまざまな切り分けの視点があり得る中であくまでも1つの分類の試みと理解されたい。
【図表1】課題解決アプローチの類型
多人数の少額取引を効率的に集約するケース
1.プラットフォーム化による多人数・少額取引の集約・マッチング
● 具体例
① クラウドファンディング(本書『FinTechビジネスと法 25講』第9 講、第10 講、第11 講)
② シンジケート可能な投資SNS(ソーシャルネットワーク)(本書第12 講)
③ P2P(個人間)レンディング(本書第8 講)
オンラインまたはモバイルでプラットフォームを構築することにより、窓口や書面ベースでのサービス提供と比較して、より低コストでより多人数の潜在顧客に対するリーチが可能となる。これによって、従来の金融事業者が費用対効果の関係でカバーできなかった多人数の少額の取引を効率的に集約し、マッチングするサービスを提供するビジネスが出現している。
各種のクラウドファンディングは、個々ではごく少額の投融資や商品購入額をある程度のロットをもった投融資や商品購入にまとめるビジネスである。また、クラウドファンディングプラットフォームに似た類型として、個々のSNSユーザーがシンジケートとして集団で投資を行うことができる投資SNS プラットフォームなども上記のような特性を活かしたビジネスであると言える。
また、P2Pレンディングについても限られた数の個々人ではビジネスとして成立しないものを、オンラインプラットフォームを活用し多人数参加させることでマッチングを容易にし、多人数・少額取引を収益事業として成立させているビジネスであると言える。
これらのビジネスに関しては、多人数を対象とするため、それが証券である場合には金融商品取引法上の開示規制・業規制との関係に注意が必要となり、また、消費者契約法、特定商取引法など消費者保護法制の観点からの検討が必要な場合もある。
さらに、取引当事者となるユーザーが貸金業法上の登録など必要な許認可を有していないことを前提に事業を構築しなければならないため、その観点からのサービス提供の可否や事業ストラクチャーの構築が必要となってくるものと言える(次回に続く)。