岸田首相「最低時給1,500円」目標を表明…“税金”と“社会保険料”の「5つの壁」はどうなる?【弁護士が解説】

岸田首相「最低時給1,500円」目標を表明…“税金”と“社会保険料”の「5つの壁」はどうなる?【弁護士が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

岸田首相は2023年8月31日の「新しい資本主義実現会議」で、2030年代半ばまでに最低時給を全国加重平均で1,500円まで引き上げる目標を表明しました。しかし、そこで問題となるのが、パート・アルバイトで働く人の収入にかかる所得税・社会保険料に関する5つの「~万円の壁」との関係です。「壁」の内容と壁にまつわる問題点について、弁護士・荒川香遥氏(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に話を聞きました。

所得税・社会保険料の「5つの壁」とは

わが国には、パート・アルバイトの所得税・社会保険の優遇にかかわる「~万円の壁」が5つあります。整理すると以下の通りです。

 

【所得税等の税制に関する壁】

・「103万円の壁」:年収103万円を超えると配偶者控除の対象から外れる

・「150万円の壁」:年収150万円を超えると段階的に控除額が減る(配偶者特別控除)

・「201万6,000円の壁」:年収201万6,000円を超えると「配偶者特別控除」の対象から外れる

 

なお、「103万円の壁」については国の制度上は実質的になくなったといわれています。なぜなら、現在は「配偶者特別控除」の制度により「150万円」までは配偶者控除と同額の38万円の控除を受けられるからです。

 

【社会保険制度に関する壁】

・「106万円の壁」:社会保険法上、年収106万円を超えると社会保険料の支払い義務が生じる(従業員100人超の事業所・雇用期間2ヵ月以上の労働者)

・「130万円の壁」:社会保険法上、年収130万円を超えると配偶者の扶養から外れる

 

以上のうち「106万円の壁」は、対象となる企業が2024年10月から「従業員数50人超」へと拡大されることが決まっています。

 

5つの「壁」の問題点

これら5つの「壁」には以下の問題が指摘されています。

 

1. 最低賃金引上げ・物価上昇に対応できていない

2. 「壁」が女性の社会進出を妨げている

 

◆問題点1|最低賃金引上げ・物価上昇に対応できていない

比較的新しい「106万円の壁」は別として、その他の「壁」は古くから存在し、金額は変わっていません。これに対し、最低賃金の全国加重平均額は、2003年に「時給664円」だったのが、2022年10月には「961円」へと1.5倍近くにまで上昇しています(【図表】参照)。

 

最低賃金が上がっているのは、物価も上昇しているからです。

 

ところが、仮に最低時給で働くパート・アルバイトの人が収入をぎりぎり「壁」の範囲内におさめようとすると、労働時間を20年前の約3分の2にしなければならないということです。物価が上昇して本来ならば収入を増やさなければならないのに、「壁」を超えたら「働き損」になるのを気にして労働時間を減らさなければならないということです。

 

厚生労働省HP「2022年(令和4年)度地域別最低賃金改定状況」を参考に作成
【図表】最低賃金(全国加重平均)の推移 厚生労働省「2022年(令和4年)度地域別最低賃金改定状況」を参考に作成

 

では、最低賃金の上昇に合わせて壁を引き上げればよいかというと、話はそんなに簡単ではありません。なぜなら、古くから「壁」の制度はその範囲で働く人を不当に優遇するものであり不公平だという指摘があります。不当かどうかは別として、優遇措置である以上「不公平」な側面があるのは否定できません。もしも壁を引き上げれば、その不公平の問題がさらに大きくなります。

 

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