米国10年債金利「4.5%~5.0%まで上昇」する可能性【マクロストラテジストが解説】
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米国債の需給を決めるひとつの要因…財政赤字
そこで米国債の需給を考えると、ひとつには、米国債の発行増加に直結する財政赤字の拡大が挙げられます。
[図表3]に示すとおり、2023財政年度の財政収支【●点付きの赤ライン】は、(パンデミックによる財政出動がほとんど消失した)2022財政年度【ピンク】に比べ、大幅に悪化しています。
バイデン政権の財政政策に加えて、財政赤字の拡大に貢献していると考えられるのが、米連邦準備制度理事会(FRB)から財務省への送金金額の減少です。
[図表4]に示すとおり、FRBと連邦準備銀行は昨年7-9月期に財務省への送金を停止しています。その背景は、FRBの資金収支が赤字・逆ザヤに陥ったためです。
中央銀行による赤字・逆ザヤは、①量的金融緩和によるバランスシートの拡大、②準備預金への付利開始、③急速なインフレに伴う大幅な利上げ、の3段階によって生じています。
[図表5]に示すとおり、FRBは世界金融危機以降、(ゼロ金利政策下でバランスシートを膨らませることで)年間800億ドル~1,000億ドル程度の利益送金を行ってきました。これに対し、2023年財政年度(今年7月時点)は、送金額がほぼゼロに近い水準となっています。
[図表6]に示すとおり、この送金額を毎年の財政赤字幅と単純比較すると、財政出動が増えた世界金融危機後やパンデミック後でも、FRBから財務省への利益送金は4~5%程度の財政赤字削減に貢献してきたと試算されます。
やはり単純比較ですが、仮に、今年7月までの送金額が昨年度と同じであったとすれば、今年度の財政赤字(7月まで)は6%程度、少なかったと試算されます。
上記のとおり、中央銀行が赤字・逆ザヤに陥って財務省への利益送金が停止されると、政府の収入が減ることで財政収支が悪化します。
合わせて、仮に中央銀行の赤字や債務超過が貨幣の信用に対する懸念を生む場合には、徴税や国債の発行によって、中央銀行の増資が行われると考えられます。
以上をまとめると、足元では、「中央銀行の財務悪化により、(いざというときに中央銀行を支えるべき)政府の収入が減少する」という事態が生じています。政府の財政と中央銀行の財務が同時に悪化する事態は、準備預金への付利から生じています。
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重見 吉徳
フィデリティ・インスティテュート
首席研究員/マクロストラテジスト
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フィデリティ投信株式会社
マクロストラテジスト
大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了後、農林中央金庫にて、外国証券・外国為替・デリバティブ等の会計・決済業務および外国債券・デリバティブ等の投資・運用業務に従事。
その後、野村アセットマネジメントの東京・シンガポール両拠点において、グローバル債券の運用およびプロダクトマネジメントに従事。
アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年にJ.P.モルガン・アセット・マネジメントに入社、2019年同社マネージング・ディレクターに就任。ストラテジストとして、個人投資家や販売会社、機関投資家向けに経済や金融市場の情報提供を担う。2020年8月、フィデリティ投信入社。
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