すでに土地は有り余っている・・・
不動産の相続対策を考えるに際しては、将来的な地価の動向も考えに入れておくべきでしょう。地価が上昇に向くのであれば、なるべく土地保有を継続すべきですし、下落傾向となるのであれば、不要な土地を早めに手放すということも対策の一つとなり得るからです。
ここで最初に結論を申し上げます。残念ながら、地価は今後も超長期的に下落を続けるものと考えます。ただし、東京23区やそれに準ずる地域といった、通勤その他で人気のある地域に限ってはやや状況は異なります(この地域でも長い目でみれば下落基調ではありますが)。ここでの話の対象は、大都市郊外や地方都市といった一般の住宅地域です。
財の価格はその需給関係で決まります。土地神話があった時代は土地が需要過多・供給過少でしたが、平成初期の地価バブル以降はそれが完全に逆転。地価は供給過剰と需要過少で苦しみ、その後も一貫して下落を続けています。
地価下落の最大の理由は少子高齢化・人口の減少です。すでに土地は有り余っています。さらにここで忘れてならないのは、今後増加する相続発生による土地の供給です。つまり、若夫婦は相続財産の家に住めばいいのであって新たに土地を購入する必要がない、といった傾向が強くなっていくのではないでしょうか。
地価が高いのは「土地が足りない」からではなかった
土地神話が華やかなりし頃は、「土地が足りないから地価が上がるのだ」とされていました。しかし、実際は違いました。土地はわんさとあったものの、地価がどんどん上がるため、土地を大量に抱えたまま誰も手放そうとしなかっただけだったのです。
これに付け加えれば、昔の土地の相続税評価は時価のほぼ3分の1水準と、時価を大きく下回っていました。その結果「最も効果的な相続税対策は、借金して土地を買うことである」とされていたものです。
つまり、資産家の最大の悩み(相続税)を軽減する手法が土地の取得・保有だったわけです。これも地価上昇に拍車をかけていた要因の一つでした。
ところが地価バブルがはじけるとともに、先にお話しした土地の需給関係の大逆転が起きました。その原因の一つには、平成4年から土地の相続税評価が時価並みの水準にまで大きく引き上げられたこともあります。これで土地保有の魅力がなくなったのです。
生産緑地法の改正も価格下落の要因?
もう一つ加えれば、生産緑地法の改正もかなり大きな影響を与えています。この改正により平成5〜6年頃から、三大都市圏の市街化区域内に残る膨大な農地の多くに、固定資産税の宅地並み課税(従来の数十倍)が実施されました。これでは所有を継続するのは容易ではありません。
その結果、これらの地域の「元農地」が徐々に売りに出されてきています。そして、いまだに残る大量の「元農地」の供給圧力は、将来的にも無視するわけにはいきません。
事実、郊外や地方都市の一般住宅地の地価は、バブル崩壊以降の20年以上の期間ずっと下がり続けています。この下落はこうした構造的原因に基づいています。したがって「景気が本格的に回復すれば、そのうち地価も・・・」という希望的観測の実現は、困難であろうと思います。
ところが多くの相続税対策本では、いまだに土地神話を引きずっているような「対策」の提案を目にすることが少なくありません。確かに地価下落を前提とする話はあまり愉快ではないかもしれませんが、現実はしっかり見据えていかなければならないように思います。