裁判所は「最後に賃料の合意がなされた時点」と判断
この点について判断したのが、最高裁判所平成20年2月29日判決です。
この判決は、上記の問題について、以下のように述べ、あくまでも「直近で合意した賃料と、その合意時点からの経済事情の変動を基礎とすべき」と判断し、特約によって増額された賃料とその増額時点からの経済事情の変動を基礎とすべきではないと判断しました。
「借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断するにあたっては、賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(以下、この賃料を「直近合意賃料」という)をもとにして、同賃料が合意された日以降の同項所定の経済事情の変動等のほか、諸般の事情を総合的に考慮すべきである」。
「賃料自動改定特約が存在したとしても、上記判断にあたっては、同特約に拘束されることはなく、上記諸般の事情のひとつとして、同特約の存在や、同特約が定められるに至った経緯等が考慮の対象となるに過ぎないというべきである」。
「したがって、本件各減額請求の当否および相当純賃料の額は、本件各減額請求の直近合意賃料である本件賃貸借契約締結時の純賃料をもとにして、同純賃料が合意された日から本件各減額請求の日までのあいだの経済事情の変動等を考慮して判断されなければならず、
その際、本件自動増額特約の存在およびこれが定められるに至った経緯等も重要な考慮事情になるとしても、
本件自動増額特約によって増額された純賃料をもとにして、増額前の経済事情の変動等を考慮の対象から除外し、増額された日から減額請求の日までのあいだに限定して、その間の経済事情の変動等を考慮して判断することは許されないものといわなければならない。
本件自動増額特約によって増額された純賃料は、本件賃貸契約締結時における将来の経済事情等の予測にもとづくものであり、自動増額時の経済事情等の下での相当な純賃料として当事者が現実に合意したものではないから、本件各減額請求の当否および相当純賃料の額を判断する際の基準となる直近合意賃料と認めることはできない」。
したがって、賃料の増減請求を検討するにあたっては、
「賃貸人と賃借人とのあいだで、最後に賃料の合意がなされたのはいつの時点か」という事実を把握することが重要となります。
※この記事は2020年4月17日時点の情報に基づいて書かれています(2023年8月25日再監修済)。
北村 亮典
弁護士
大江・田中・大宅法律事務所
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】