リスク・パリティで考えるポートフォリオの資産保有比率と目先の変動性【マクロストラテジストが解説】

リスク・パリティで考えるポートフォリオの資産保有比率と目先の変動性【マクロストラテジストが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

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リスクが抑えられる分、期待リターンも低くなる

3.リスク・リターン効率

そして、[図表5]は、この「リスク・パリティ・ポートフォリオ」の実績値を、他のポートフォリオと比較したものです。

 

[図表5]リスク・パリティ・ポートフォリオは、リスク・リターン効率が高い
[図表5]リスク・パリティ・ポートフォリオは、リスク・リターン効率が高い

 

【2段目】のリスク(変動性)に注目いただくと、【1番左】のリスク・パリティ・ポートフォリオは、ほかの2つと比べて、リスクが大幅に低いことがわかります。その結果、【3段目】のリスク・リターン効率が大幅に改善します。

 

4.金融市場への影響

ただ、[上記図表5]の【1段目】のリターンをみると、【1番左】のリスク・パリティ・ポートフォリオは、ほかの2つと比べて、見劣りします。リスク・パリティ・ポートフォリオは国債が75%程度と、多く含まれているためです。

 

リスク・パリティ運用を実践する投資家は、(国債の保有比率が高いために)リスクが抑えられる分、期待リターンも低くなります。そこで、株式と国債の先物取引での「買い持ち」を増やすことで=レバレッジをかけることで、ポートフォリオ全体のリスクを、目標の水準まで引き上げます。

 

たとえば、ある投資家が米国株式と同程度のリスク許容度を持つ場合には、[図表5]にあるように、リスク・パリティ・ポートフォリオを「300%」持てる計算ですから、現金部分での株式と国債の保有に加え、株式と国債の先物取引で2倍分の買い持ちを行います。

 

言い換えれば、リスク・パリティ運用が人気になり、多くの投資家がこの運用手法を採用すると、金融市場全体のリスクテイク・買い持ちが株式・国債ともに増大します。

 

もうひとつ大事な点として、同じことの応用ですが、たとえば、金融市場全体の変動性が低下するにつれてポートフォリオのリスクは低下しますから、リスク・パリティの運用者は「先物での買い持ち」を増やし、低下したポートフォリオのリスクを引き上げていきます。

 

そうしたところで、変動性が一気に高まるような「怖いイベント」が起きると、ポートフォリオのリスクが一転して大幅に高まりますから、ポジションの大幅な圧縮を行います=多額の売りが出ます。こうして、たとえば、2018年2月の「VIXショック」のように、変動性そのものや各市場の下落率が大きくなりがちです。

 

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