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中央銀行による債務超過の“伝統的なパターン”

さて、最近の当コラムでは、中央銀行の「資金収支の赤字」や「債務超過」について考えるために、市中銀行準備預金やリバース・レポ、政府預金といった中央銀行にとっての負債科目、さらには市中銀行による貸出や翌日物の資金貸借市場などについてみてきました。赤字(純損失)が累積して、資本を上回ると債務超過に至ります。

 

今回は、中央銀行の「債務超過」のパターンとその解消方法について眺めていきます。

 

第1に、中央銀行が債務超過に陥るクラシックなパターンは、[図表1]に示すとおり、評価損や売却損によって保有資産の価値が目減りすることから起きます。 

 

[図表1]中央銀行が債務超過に陥る(伝統的な)パターン①評価損や売却損による資産価値の目減り
[図表1]中央銀行が債務超過に陥る(伝統的な)パターン①評価損や売却損による資産価値の目減り

 

[図表2]①評価損や売却損による債務超過は国債発行・徴税により解消できる
[図表2]①評価損や売却損による債務超過は国債発行・徴税により解消できる

 

合わせて、評価損や売却損による債務超過の直接的な解消方法は、[図表2]に示すとおり、国債発行や徴税による方法です(→市中銀行準備預金を減らして、資本に振り替える)。

 

すなわち、「貨幣の信用力とは政府の信用力・徴税能力である」と言い換えられます(→貨幣を民間の機関(米連邦準備制度理事会・FRB)が発行している米国をどう考えるかといった、新たな疑問が生じます)。

 

ただし、債務超過は必ずしもただちに解消されるとは限りません。たとえば、オーストラリア準備銀行は昨年、保有債券の評価損で債務超過に陥っていますが、解消策は講じられていません。とはいえ、豪ドルは暴落していません。

 

他方で、イングランド銀行の「資産買い入れファシリティ」については、保有債券の売却(量的引き締め・QT)によって多額の実現損が生じており、英財務省とイングランド銀行による事前の取極めにしたがって、財務省が損失を補填しています。

 

別途、過去にも、チリ、チェコ、イスラエル、メキシコの中央銀行のほか、先進国では、ドイツ連銀が1977~1979年に債務超過に陥っています(→主に外貨準備の評価損による)。これらの中央銀行は数年単位で債務超過が継続しましたが、金融政策を問題なく実行することができています。

 

なお、日本銀行と米連邦準備制度理事会(FRB)は償却原価法を採用しているために評価損を計上しません(→仮に、FRBが評価損を計上すれば、FRBは大幅な債務超過です)。他方で、欧州中央銀行(ECB)やドイツ連銀などは大規模な評価損を計上しています。

 

さらに付け加えると、FRBは量的引き締め・QT=資産の削減を行っていますが、保有国債の満期償還や住宅ローン担保証券・MBSの繰り上げ償還による「自然減」に任せているために売却は行っておらず、実現損はほとんど生じていません。

 

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