「間違ったやり方」で悩んでいたが・・・
私は勉強を含むほとんどの分野は、努力ややり方次第でいくらでも能力を伸ばすことが
できると思っています。ただ、ウツに関してだけは「治そうとしても一生変わらない」と
信じ込んでいた時期がありました。中学3年生からうつ病だったため、強い「固定タイプ」のメンタルセットをもっていたのです。
このように、ある分野では変動タイプであり、別の分野では固定タイプになっていることもあります。ウツに関しては、父親もかつてうつ病だったという話を聞き、「こうした性質は生まれもった遺伝子によるもので、一生治しょうがない」と捉えていたのです。今考えると、なぜその話を聞いた頃の父親がすでにウツではないという事実に気づかなかったのかと思います。
ですが、メンタルセットが固まっていると、自分の理論を崩すような都合の悪い情報にはあまり目を向けないため、しばしば改変のチャンスを逃してしまうのです。固定タイプになったのは、ウツに対して立ち向かっても乗り越えられなかった挫折経験が大きく影響しています。
当時の私は、学校の保健室でうつ病の本を読むまでは「ウツ」という言葉すら知りませんでした。そのため、不可解な気分の落ち込みに、どう対処すべきかまったくわからなかったのです。やる気を出そうと気合いを入れてもまたすぐ落ち込んでしまうし、何とか気晴らそうと無理に出かけるなど、色々試してもダメ。
こうして、たったひとり、間違ったやり方で「挑戦しては失敗」という経験を何度も何度も繰り返したために、「ウツは治らない」という結論を出してしまったのです。しかし現在の私は、「ウツは治る」と思っていますし、実際に自分で感情をうまくコントロールできるようになりました。メンタルセットが変わったことにより、障害を乗り越えられたのです。
「落ち込みやすい脳」の仕組みは変えられる!?
私は、うつ病に関する本から「精神科に行く」「カウンセリングを受ける」「薬を飲む」 など、いくつかの対処法を得ることができました。最初は固定タイプのメンタルセットが 邪魔をして、「精神科に行っても無駄」「人間の脳は全員違うのに、薬が効くわけない」という思いがどこかにあり、心から信じることはできませんでした。
それでもウツを何とかしたいという気持ちがあったので、大学に入ってから、疑い半分、期待半分で精神科に行くことにしました。それから何年もかけてたくさんの精神科をめぐり、話を聞いていくうちに、「治る」と信じさせてくれる医師に出会いました。また、薬学部で向精神薬がどのように吸収され、脳にどう働きかけるか、という作用機序の知識を得られたのが、薬を信じられるようになった何よりの理由です。
実際にウツを治した同級生の話を聞いたことも、「本当に治せるんだ」という実感が湧いて、自分もできるはずという前向きな気持ちを後押ししてくれました。そしてきちんと精神科に通って、カウンセリングを受けたり、自分に合った薬を飲んだりと治療を進めていくうちに、あんなにつらかったウツが少しずつ治まっていくのを感じました。
固定タイプのメンタルセットで「ウツは治らない」と思い込んだままでいたら、精神科やカウンセリングに行こうとも思えないし、医師の指示通りに行動しないので、治療はなかなか前に進まなかったことでしょう。
「ウツは治る」と信じられたことは、落ち込みやすい脳の仕組みは変えられるという「変動タイプ」のメンタルセットになったということです。この変化は、①治る仕組みに関してちゃんとした知識を理解し、②実際に治ったという人の話を聞き、③治療をして精神の落ち着きを実際に感じられたことにより生まれました。
そのおかげで、様々な情報や知識も素直に受け入れられ、ますます感情のコントロー ルがうまくできるようになりました。