法改正に伴い、近年企業における「パワハラ」はより厳格に取り締まられるようになってきました。本連載は、弁護士である山浦美紀氏の著書『パワハラのグレーゾーン-裁判例・指針にみる境界事例-』(新日本法規出版)より、一部抜粋して紹介。実際の現場で起こり得る企業のグレーゾーンな事例を取り上げながら、弁護士が分かりやすく解説します。
「大和証券ほか1社事件」での実際の判例
大和証券ほか1社事件(大阪地判平27・4・24労判1123・133)は、出向先の証券会社で営業に従事していた出向社員に対し、約1年間にわたり新規顧客開拓業務に従事させ、1日100件訪問するように指示したり、営業活動により取引を希望した顧客の口座開設を拒否したりしたこと等が嫌がらせと判断された裁判例です。
確かに、新規顧客開拓業務により、商品に関する知識を身につけるとともに、顧客とのコミュニケーション能力を向上させるという部下の育成目的は認められるところかもしれません。
しかし、判示では、「飛び込みでの営業活動によって契約の締結に至ることは1%もなく、多くは門前払いにされるというのであるから、飛び込み訪問による営業活動を続けることによって向上することのできる能力に限界があることは明らかである。……飛び込みによる営業活動のみを1年近くも行わせることに合理的な理由があるとは認められない。」とされています。
さらに、判示では、「新規顧客開拓業務についても、既存顧客を有している営業部員は、飛び込みの営業ではなく既存顧客からの紹介により行う」こと、「営業業務に全く従事したことのない新卒社員についても当初から既存顧客を割り当てているか、新規顧客開拓業務のみに従事させたとしても2、3ヵ月程度である」ことを理由とし、他の営業部員や新入社員との比較においても、当該出向社員に対する対応が不合理であったとの比較をしています。
このように、他の社員との比較で不合理な業務をさせることは、「過大な要求」に該当するおそれがあるため注意が必要です。
山浦 美紀
鳩谷・別城・山浦法律事務所
弁護士
鳩谷・別城・山浦法律事務所
弁護士
平成12年 大阪大学法学部卒業
平成13年 司法試験合格
平成14年 大阪大学大学院法学研究科修士課程修了(法学修士)
平成15年 弁護士登録とともに北浜法律事務所入所
平成25年 北浜法律事務所・外国法共同事業退所
平成26年 鳩谷・別城・山浦法律事務所に参加
現 在 鳩谷・別城・山浦法律事務所パートナー弁護士
〔公職〕
大阪大学大学院高等司法研究科客員教授
大阪大学法学部非常勤講師
元大阪地方裁判所民事調停官
[著 作]
『人事労務規程のポイント―モデル条項とトラブル事例―』(共著)(新日本法規出版、2016)
『Q&A 有期契約労働者の無期転換ルール』(共著)(新日本法規出版、2017)
『女性活躍推進法・改正育児介護休業法対応 女性社員の労務相談ハンドブック』(共著)(新日本法規出版、2017)
『Q&A 同一労働同一賃金のポイント―判例・ガイドラインに基づく実務対応―』(共著)(新日本法規出版、2019)
『実務家・企業担当者のためのハラスメント対応マニュアル』(共著)(新日本法規出版、2020)
『最新同一労働同一賃金27の実務ポイント―令和3年4月完全施行対応―』(共著)(新日本法規出版、2021)
『裁判例・指針から読み解くハラスメント該当性の判断』(共著)(新日本法規出版、2021)
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載「その行為はパワハラ?」──裁判例も交えて弁護士が徹底解説