部署の営業成績を上げたかった…
ノルマを達成できなかった部下の奮起を目的として、部署全員にコーヒーをおごらせる罰ゲームを設けた。
部署の営業成績を上げるために、ノルマを達成しなかった部下らに対し、「毎月、ノルマが達成できない場合、部署のみんなにコーヒーをおごるように」と罰ゲームを設け、奮起させるシステムをとっています。実際に一定の効果があり、部署の営業成績は上がっているのですが、このような指導方法は、パワハラに該当しますか。
弁護士の判断
ノルマを達成できない部下に対して、コーヒーをおごるように命令する罰ゲームのような行為は「一定程度の注意」を超え、経済的に不利益を被らせることから、行き過ぎた指導として雇用管理上の措置義務の対象となるパワハラに該当します。加えて、正式な懲戒処分の手続を経ずに減給処分と同様の効果を与えるものであり、違法な業務命令です。
「精神的な攻撃」に該当するか
部下に対して、営業成績を上げるために、「ノルマ不達成ならコーヒーをおごるように」と実質的に命令する言動は、パワハラの6類型のうち、「精神的な攻撃」に該当するかどうかが問題となる行為です。
さて、この上司の行為は、注意指導の範疇に属し、許される言動なのか、それとも行き過ぎたパワハラであるかどうかが問題となります。具体的には、パワハラの定義のうち、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動か否かという問題となります。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動か否か
パワハラ指針の6類型の「精神的な攻撃」に該当しないと考えられる例においても、「遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること」が挙げられており(パワハラ指針2(7)ロ(ロ)①)、これらはパワハラに該当しないと考えられるとされています。
しかし、ノルマ不達成の部下に対して、コーヒーをおごるように命令する罰ゲームのような行為は「一定程度の注意」を超えています。そればかりか、部下に対して、ノルマ不達成の場合に、経済的に不利益を被らせることから、行き過ぎた指導としてパワハラに該当します。
営業成績を上げるためという業務上の必要性はありますが、本来は、営業のノウハウを具体的に指導したり、実地研修をしたりすべきであり、このような命令をする相当性が認められません。したがって、ノルマ不達成の場合にコーヒーをおごるように命令することは、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動と言えます。
実質的な減給処分に当たること
また、ノルマ不達成の場合に、部下にコーヒーをおごらせることは、部下に経済的な損失を負わせることとなります。食事であろうがコーヒーであろうが金額の多寡に関係なく、義務のない経済的な負担を強いる行為です。
職務上のミス等により、経済的な損失を負わせる処分としては、懲戒処分としての「減給処分」(賃金が減給分減らされるという経済的損失がある処分)、「停職処分」(停職中の賃金が支払われないという経済的損失を伴う処分)、「降格処分」(降格に伴い支給される賃金が減り経済的損失を伴う処分)などがあります。これらの懲戒処分をする際は、就業規則等にのっとり、事実の調査をしたり、弁明の機会を与えたり、懲戒委員会や役員会を開催して、処分内容を決定するといった一連の手続が必要となります。
本事例のような上司の命令は、このような懲戒処分の正式な手続を経ないで、部下に経済的な損失を負わせるものであり、違法な業務命令と判断されるおそれがあります。
山浦 美紀
鳩谷・別城・山浦法律事務所
弁護士