法改正に伴い、近年企業における「パワハラ」はより厳格に取り締まられるようになってきました。本連載は、弁護士である山浦美紀氏の著書『パワハラのグレーゾーン-裁判例・指針にみる境界事例-』(新日本法規出版)より、一部抜粋して紹介。実際の現場で起こり得る企業のグレーゾーンな事例を取り上げながら、弁護士が分かりやすく解説します。
部下を奮起させたかった…
ノルマを達成できない部下の奮起や周知を目的に、「このままでは辞めてもらうしかない」などと書いたメールを、営業チームである当該部下を含む複数の部下に送った。
ノルマを達成できない部下に対し、次こそは頑張ってもらおうと奮起させることを目的として、「このままでは辞めてもらうしかない」など、会社にとって不利益な存在になっている旨を書いたメールを、当該部下を含む営業チームに所属する複数の部下宛に送信しました。このようなメールを送信するのは、パワハラに該当しますか。
専門家の見解は
「このままでは辞めてもらうしかない」などと書いたメールを、当該部下を含む複数の部下宛に送信する行為は、部下を奮起させるという目的があったとしても、注意指導の範囲を超え、雇用管理上の措置義務の対象となるパワハラに該当するといえます。
「精神的な攻撃」に該当するか
「このままでは辞めてもらうしかない」などと書いたメールを、当該部下を含む複数の部下宛に送信する行為は、パワハラの6類型のうち、「精神的な攻撃」に該当するかどうかが問題となる行為です。他方で、上司がこのようなメールを送信した理由は、部下がノルマを達成できていないことがあり、部下に奮起してもらいたいという目的がありました。
さて、この上司の行為は、注意指導の範疇に属するのか、それとも行き過ぎたパワハラであるかどうかが問題となります。具体的には、パワハラの定義のうち、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動かどうかという問題となります。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動かどうか
ノルマを達成できない部下に業務の改善を促すために、メールで激励をすることは正当な指導といえますが、いくら業務の改善が目的にあるとしても、その激励の内容や手段が相当な範囲を超える場合には、パワハラに該当するといえます。
当該部下を含む複数の部下に対してメールを送信することで、他人に見せしめのような形で侮辱的な言葉を用いて叱責することは、名誉毀損や侮辱に該当するおそれもありますし、不適切な指導であってパワハラといえます。
鳩谷・別城・山浦法律事務所
弁護士
平成12年 大阪大学法学部卒業
平成13年 司法試験合格
平成14年 大阪大学大学院法学研究科修士課程修了(法学修士)
平成15年 弁護士登録とともに北浜法律事務所入所
平成25年 北浜法律事務所・外国法共同事業退所
平成26年 鳩谷・別城・山浦法律事務所に参加
現 在 鳩谷・別城・山浦法律事務所パートナー弁護士
〔公職〕
大阪大学大学院高等司法研究科客員教授
大阪大学法学部非常勤講師
元大阪地方裁判所民事調停官
[著 作]
『人事労務規程のポイント―モデル条項とトラブル事例―』(共著)(新日本法規出版、2016)
『Q&A 有期契約労働者の無期転換ルール』(共著)(新日本法規出版、2017)
『女性活躍推進法・改正育児介護休業法対応 女性社員の労務相談ハンドブック』(共著)(新日本法規出版、2017)
『Q&A 同一労働同一賃金のポイント―判例・ガイドラインに基づく実務対応―』(共著)(新日本法規出版、2019)
『実務家・企業担当者のためのハラスメント対応マニュアル』(共著)(新日本法規出版、2020)
『最新同一労働同一賃金27の実務ポイント―令和3年4月完全施行対応―』(共著)(新日本法規出版、2021)
『裁判例・指針から読み解くハラスメント該当性の判断』(共著)(新日本法規出版、2021)
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載「その行為はパワハラ?」──裁判例も交えて弁護士が徹底解説