「バカ上司」部下からの暴言に思わず「アホ」「ボケ」と言い返し…上司「上司の発言だけが、パワハラに該当するのでしょうか」【弁護士からの厳しい回答】

「バカ上司」部下からの暴言に思わず「アホ」「ボケ」と言い返し…上司「上司の発言だけが、パワハラに該当するのでしょうか」【弁護士からの厳しい回答】
画像:PIXTA

法改正に伴い、近年企業における「パワハラ」はより厳格に取り締まられるようになってきました。本連載は、弁護士である山浦美紀氏の著書『パワハラのグレーゾーン-裁判例・指針にみる境界事例-』(新日本法規出版)より、一部抜粋して紹介。実際の現場で起こり得る企業のグレーゾーンな事例を取り上げながら、弁護士が分かりやすく解説します。

部下からの暴言に咄嗟に言い返してしまい

部下から暴言で罵られたので、同じく暴言で言い返した。

 

部下を指導している最中に、いきなり「バカ上司」などと罵られました。急なことで、余りにも腹が立って、とっさに「アホ」「ボケ」と重ねて言い返してしまいました。

 

すると、当該部下から、「上司が部下に対し、「アホ」「ボケ」という発言をするのは、パワハラになる。総務に報告する。」と言われました。部下から上司への「バカ上司」発言があって言い返しただけなのに、上司から部下への同様の発言だけがパワハラに該当するのでしょうか。

弁護士の回答

「アホ」や「ボケ」と言い返した言動については、部下の侮蔑的な言動に起因するものですが、言い返す必要まではないものであり、注意指導の範囲を超え、雇用管理上の措置義務の対象となるパワハラに該当するおそれがあります。

「精神的な攻撃」に該当するか

部下が「バカ上司」と発言したことに対し、「アホ」「ボケ」と言い返した言動は、パワハラの6類型のうち、「精神的な攻撃」に該当するかどうかが問題となる行為です。

 

「アホ」「ボケ」という言葉は、部下を侮辱するような言動です。しかし、「アホ」「ボケ」は、関西地方ではいわゆる「ツッコミ」の一つとして日常会話でも使われる言葉であり、「冗談」であるとも捉えられる余地のある言葉でもあります。加えて、上司が「アホ」「ボケ」という発言をしたのは、部下が、「バカ上司」と発言したことに対して、言い返したという意味合いもあります。

 

さて、この上司の発言は、許される言動なのか、それとも行き過ぎたパワハラであるかどうかを検討します。具体的には、パワハラの定義のうち、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動かどうか、そして、「労働者の就業環境が害される」言動かどうかという問題となります。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動かどうか

上司の指示に従わない部下に対して注意を促すことは正当な指導といえますが、いくら業務の改善が目的にあるとしても、その注意の内容や手段が相当な範囲を超える場合には、パワハラに該当するといえます。

 

上司の指示に従わない場合には、指示の内容をさらに具体的に伝えて注意を促したり、余りにも指示に従わない場合には、業務命令違反として懲戒処分を検討するというのが通常の方法です。その注意の過程で、いくら激高したからといっても、例えば「アホ」「ボケ」というような不穏当な発言をする必要はありませんし、その発言内容も不相当なものです。

 

したがって、「アホ」「ボケ」という言葉を用いた注意指導は、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動といえるでしょう。

次ページ上司が「あほ」と発言した実際の裁判例では
パワハラのグレーゾーン-裁判例・指針にみる境界事例-

パワハラのグレーゾーン-裁判例・指針にみる境界事例-

山浦 美紀

新日本法規出版

その行為はパワハラ?! 判断に迷う事例をわかりやすく解説! ◆パワハラか否か・・・誤認しがちな行為を6つの類型に分類し、具体的な事例を掲げて解説しています。 ◆多数の裁判例やパワハラ指針、パワハラ運用通達等を参…

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