「このままでは辞めてもらうしかない」部下に送ったメール…上司「部下の奮起や周知が目的。パワハラに該当しますか」【弁護士のスカッとする回答】

「このままでは辞めてもらうしかない」部下に送ったメール…上司「部下の奮起や周知が目的。パワハラに該当しますか」【弁護士のスカッとする回答】
画像:PIXTA

法改正に伴い、近年企業における「パワハラ」はより厳格に取り締まられるようになってきました。本連載は、弁護士である山浦美紀氏の著書『パワハラのグレーゾーン-裁判例・指針にみる境界事例-』(新日本法規出版)より、一部抜粋して紹介。実際の現場で起こり得る企業のグレーゾーンな事例を取り上げながら、弁護士が分かりやすく解説します。

A保険会社上司(損害賠償)事件(東京高判平17・4・20労判914・82)では、保険会社のサービスセンター内において、同時に同じ職場の従業員十数名に対し、ポイントの大きな赤文字で、

 

「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです」

 

「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の業績を挙げますよ。……これ以上、当SCに迷惑をかけないで下さい」

 

とメール送信した上司の行為について、「それ自体は正鵠を得ている面がないではないにしても、人の気持ちを逆撫でする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載などの他の部分ともあいまって、控訴人(筆者注:被害者)の名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかであり、上記送信目的が正当であったとしても、その表現において許容限度を超え、著しく相当性を欠く」と不法行為が認定されました。

 

部下がミスしたことや、業務成績に関し、他の部下に対しても、周知し、部署全体で改善をしていく必要がある場合には、ミスや業務成績の内容だけを記載し、他の従業員にも注意喚起するという方法をとることで必要十分であると考えられます。それを超えて、ミスをしたり、ノルマを達成できなかったりした部下を見せしめにする、衆目を集めるような形で叱責をするという手法は、パワハラに該当するといえます。

当該部下だけにメールを送信した場合

「このままでは辞めてもらうしかない」というメールを当該部下だけに送信した場合は、パワハラに該当するでしょうか。

 

ノルマの達成できない部下に対し、次こそは頑張ってもらおうと奮起させることを目的として、メールを送信しており、「業務上の必要性」は認められます。しかし、奮起させることを目的としているのであれば、「次からは頑張れ」等と発奮させる言葉をかければよいのであって、わざわざ「このままでは辞めてもらうしかない」とまで言う必要はありません。

 

「労働者の就業環境が害される」言動かどうかは、「平均的な労働者の感じ方」を基準に判断されます。また、パワハラ運用通達第1・1(3)イ⑥によれば、「言動の頻度や継続性は考慮されるが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、一回でも就業環境を害する場合があり得る」とされています。

 

「平均的な労働者」を基準とすれば、上司から「辞めてもらうしかない」と言われた場合、一回であっても、自分はもう会社にいられなくなるのではないかと強い不安を感じ、強い精神的苦痛を与える言動に該当すると考えられます。たとえ、当該部下だけにメールを送信したとしても、その内容が、退職をせざるを得ないような状況に陥っているような不安を与える言動であれば、パワハラに該当するといえます。

“過大な営業成績目標やノルマ”がパワハラの背景となることも

上司が部下に対して、営業成績やノルマ不達成を理由としてパワハラをしてしまうもともとの要因は、上司個人に起因することもありますが、会社が設定した営業成績やノルマがそもそも過大なことが遠因となっている場合もあります。

 

パワハラ指針5(2)ロにおいては、事業主が行うことが望ましい取組の内容として、パワハラの原因や背景となる要因を解消するため、適正な業務目標の設定や適正な業務体制の整備、業務の効率化による過剰な長時間労働の是正等を通じて、労働者に過度に肉体的・精神的負荷を強いる職場環境や組織風土を改善することが挙げられています。

 

パワハラ防止を上司個人の責務とするのではなく、パワハラ言動の背景に会社の掲げた目標やノルマが影響を与えていないかどうか、背景も含めて精査をする必要があります。

 

 

山浦 美紀

鳩谷・別城・山浦法律事務所

弁護士

パワハラのグレーゾーン-裁判例・指針にみる境界事例-

パワハラのグレーゾーン-裁判例・指針にみる境界事例-

山浦 美紀

新日本法規出版

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