もしサイドフロントでボールを受けたら、一刻も早くバックパス
それでもサイドバックが「サイドフロント」でボールを受けざるをえない場面は試合で起こり得ます。最も多いのは、自陣深くからのスローインです。
スローインというのは相手はあらかじめ「同サイド圧縮」の形をつくれますし、投げ手がピッチ外に出なければならないので初期設定からして数的不利。狭いスペースでロンド(鳥かご)をするようなもので、抜け出すのは簡単ではありません。解決策としては、一刻でも早くバックパスをすることです。
バックパスを受けたセンターバックがダイレクトでGKに戻したり、GKがゴールマウスから離れて迂回経路をつくったりするプレーが必要になります。
チェルシーでトゥヘル時代のGKエドゥアール・メンディは、ゴールマウスから離れてバックパスのコースをつくる動きを徹底していました。ランパード時代には見られなかったので、おそらくトゥヘルが厳しく求めていたのでしょう。
ヨーロッパのビッグクラブの中には、サイドバックがタッチライン際でボールを受けても、そこから打開できるチームもあります。しかしそれは個人の突出したテクニックによる抜け出しや、インサイドハーフやボランチが持ち場を離れてタッチライン際まできてパスを受けるからで、「選手の技術頼みでうまくいった」というケースがほとんどです。
2023年現在では、アーセナルがサイドフロントからのパスをファジーゾーンから内側に走るサイドハーフにスルーパス気味に出すパスカットイン(フットサルのアラコルタ)で打開するケースもありますが、限定的かつ技術的要求が高いため、これも個人の突出したテクニックに分類されると思います。再現性は低く、個人のキープ力やアドリブ力が平均的なチームは真似するべきではないでしょう。
<まとめ>
●ビルドアップでサイドバックが低い位置で張ってボールを持つと、相手のプレスの餌食になりやすい。
●サイドバックはペナ幅くらいまで内側に絞ると、外側と内側の両方にパスコースをつくりやすい。
●GKを頂点に「逆三角形」の陣形をつくると、質に依存したボール運びをしなくて済む。
著者:Leo the football
日本一のチャンネル登録者数を誇るサッカー戦術分析YouTuber(2023年8月時点で登録者数23万人)。日本代表やプレミアリーグを中心とした欧州サッカーリーグのリアルタイムかつ上質な試合分析が、目の肥えたサッカーファンたちから人気を博す。プロ選手キャリアを経ずして独自の合理的な戦術学を築き上げ、自身で立ち上げた東京都社会人サッカーチーム「シュワーボ東京」の代表兼監督を務める。
構成:木崎 伸也
「Number」など多数のサッカー雑誌・書籍にて執筆し、2022年カタールW杯では日本代表を最前線で取材。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『ナーゲルスマン流52の原則』(ソル・メディア)のほか、サッカー代理人をテーマにした漫画『フットボールアルケミスト』(白泉社)の原作を担当。