勝敗に大きく影響する「監督」…日本に名将はいないのか?
「日本の指導者はヨーロッパに比べて遅れていますか?」
YouTubeで生配信をしていると、よくこんな質問を受けます。
おそらく質問者の方は、僕が現在の日本サッカー界の問題をぶった斬ることを期待しているのかもしれませんし、そういう思いに応えた方がいいのかなという気持ちはあります。
ただし、「日本」と大きく括るのはあまり好きではありません。日本にも優れた指導者がいるからです。
オンラインサロン『レオザ学園』では毎月サッカー関係者を招いて授業を開催しているのですが、僕自身そこで優れた指導者から多くのことを吸収してきました。
逆にヨーロッパにも良くない指導者は山のようにいます。5大リーグで指揮を取っているからといって全員が優秀なわけではありません。
ただし、日本の「ミス待ちサッカー」で世界の壁は越えられない
とはいえ、優秀な指導者の割合がヨーロッパに比べて少ないのは確かでしょう。日本では戦術の基本が押さえられていない試合をしばしば目にします。
たとえば守備におけるプレス。
日本代表では、1つ目のプレスの約束事は個人の「頑張り」によるものです。しかしそれがかわされて逆サイドに振られたときなどに、誰が前に出ていくのか、後ろでどうスライドするのか、中央の選手を誰が抑えるのかといった原則が決まっていません。選手個人の判断に委ねられている部分が多いので、誰かが行ったり行かなかったり、メンバーや状況によってそのつど違う現象が起こってしまいます。
これを僕は「ミス待ちサッカー」と呼んでいます。
知性をもとにした連動で相手を上回ろうとするのではなく、個人の資質や確率によって何とかしようとするサッカーです。
僕が出会ったプロ選手やアマチュア選手に話を聞くと、日本の指導では「精神論」が大きな比重を占めている印象を受けます。試合から逆算したロジカルなメニューではなく、罰ゲーム的な素走りやゲームで起きづらい1対1の練習がまだまだ浸透しているのではないでしょうか。
自分の頭でサッカーを考えられ、それを突き詰められる選手ならば、非論理的な指導の中からもトップの舞台に這(は)い上がってこられます。しかしガムシャラに頑張ることしか知らない選手はそうはいきません。
正しい努力の仕方と出合えず、根性だけでなんとかしようとして「自分には才能がない」と思い込んでフェードアウトしてしまった選手は山のようにいるのではないでしょうか。
指導者や選手たちが知性を使いサッカーをレベルアップさせるきっかけの一つになりたい――。それが本書の最大の目的です。
名将だけが実践している「8つの真理」
本書では次のような普遍的な理論を「サッカーの真理」と定義づけ、それらを中心に講義を進めていきます。
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<サッカーの真理>
●正対理論
●ポイント論
●サイドバックは低い位置で張ってはいけない
●アピアリング
●ファジーゾーン
●トゥヘルシステム
●プレパレーションパス
●同サイド圧縮
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冒頭で「ヨーロッパの監督も遅れている」と書いたように、これらをすべてできている監督は世界でもかなり限られています。
たとえば「サイドバックは低い位置で張ってはいけない」を5大リーグで実践しているのは、ペップ・グアルディオラ、ミケル・アルテタ、トーマス・トゥヘル、ユリアン・ナーゲルスマン、ロベルト・デ・ゼルビ、ヴァンサン・コンパニ、シャビ・アロンソなど僕が知る限りかなり少数です。しかし、この監督たちが結果や一定の成果を残していることは紛れもない事実です。
なぜサイドバックは低い位置で張ってはいけないのか? これについては講義2で書きたいと思いますが、ざっくり言うと「手詰まりになりやすいから」です。
サイドの低い位置は相手から離れていてパス自体は受けやすいのですが、そこから相手が追い込んでくるんですね。近くにいる味方は相手を背負った状態になり、まんまと相手のプレスにはめられてしまいます。
そうならないためのポジショニングが「ハーフフロントに立つ」。その方法論は講義2でしっかり説明したいと思います。
「高いパフォーマンスを発揮しているチーム」には共通点がある
僕がサッカーの分析にはまったきっかけは、2009年のUEFAチャンピオンズリーグ(以降、CL)決勝、バルセロナ対マンチェスター・ユナイテッド(2対0)でした。
「いかにもスター」というルックスのクリスティアーノ・ロナウドやファーディナンド、ルーニーを、身長がそれほど高くないシャビ、イニエスタ、メッシが圧倒した試合です。それまで僕の中でサッカーの試合というのは流れが両チームを行き来するイメージがあったのですが、この試合は完全にバルサが支配していました。
なぜ、あのユナイテッドがボールにほとんど触れられなかったのか?
疑問に思って試合を見返し、あらためていろいろな本を読んだところ、「選手の配置」や「正対理論」といった戦術を知ったんです。そこから一気にサッカーの研究にのめり込みました。多いときでは1週間に約20試合、90分間フルで分析していました。
そして試合を見ているだけではわからないことがあると思い、オンラインサロンで立ち上げたチーム「FCシュワーボ」(現シュワーボ東京)で監督を務め、ピッチの上で「どんな原則が機能するか」を徹底的に追究しました。
すると「ボールホルダーが相手に正対していなかったからパスの出し先が読まれたんだ」、「サイドバックが張っていたからはめられたんだ」といったことが見えてきたんです。
その視点をもとにプロのサッカーの試合を見ると、高いパフォーマンスを発揮しているチームの共通点がはっきりと浮かび上がってきました。そういう普遍性をまとめたものが本書になります。
ヨーロッパの真似をする必要はありません。オープンマインドで分析とトライ&エラーを実行しながら、いい意味でガラパゴス化してそこに日本人の特性を乗せられたら、世界一のサッカーが生まれると確信しています。
著者:Leo the football
日本一のチャンネル登録者数を誇るサッカー戦術分析YouTuber(2023年8月時点で登録者数23万人)。日本代表やプレミアリーグを中心とした欧州サッカーリーグのリアルタイムかつ上質な試合分析が、目の肥えたサッカーファンたちから人気を博す。プロ選手キャリアを経ずして独自の合理的な戦術学を築き上げ、自身で立ち上げた東京都社会人サッカーチーム「シュワーボ東京」の代表兼監督を務める。
構成:木崎 伸也
「Number」など多数のサッカー雑誌・書籍にて執筆し、2022年カタールW杯では日本代表を最前線で取材。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『ナーゲルスマン流52の原則』(ソル・メディア)のほか、サッカー代理人をテーマにした漫画『フットボールアルケミスト』(白泉社)の原作を担当。