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債務超過解消のカギは「将来の利益」?

前節では、債務超過の直接的な解消方法として、政府による出資を示しました。もちろん、民間による出資も可能です(→貨幣という中銀債務を中銀への出資に振り替える)。

 

実際には、FRBと米財務省のあいだには、(2011年に債務超過に備えた会計方法の変更が行われていることから類推すると、事前にFRBが債務超過に陥る可能性については視野に入っていたようですが)FRBが民間出資の機関であり、自身の独立性を懸念したためか、「債務超過を財務省の出資によって解消する」といった取極めは結ばれていません。

 

合わせてECBについてもそうしたとりきめはありません。他方のイングランド銀行の資産買い入れファシリティについては上記のとおり、政府と中銀による債務補填の取極めがあります。

 

ただし、資産買い入れファシリティは中央銀行からは切り出された存在になっています。これも(イングランド銀行本体の債務超過を避けることで)独立性を考慮したためと思われます。

 

話をFRBに戻すと、FRBは、政府や民間による出資ではなく、将来の利益で債務超過を解消しようとしています。[図表7]は、ニューヨーク連銀による今後のFRBの債券ポートフォリオの資金収支見通しを示したものです。

 

[図表7]FRBによる収支見通し
[図表7]FRBによる収支見通し

 

ただし、「逆イールド」と中央銀行の赤字が長引けば、中央銀行が発行する債務、すなわち貨幣への信頼が揺らぐ可能性も否定はできません。

 

“中銀はいくらでも貨幣を発行できるので問題ない”との反論は正しいか

中央銀行の債務超過に対する懸念の主たる反論として「中央銀行はいくらでも貨幣を発行できるので利益を増やし累積損失を一掃できる」というものがあります。

 

もし、それができるのなら、中央銀行は「無用な懸念」を持たれる前に、いますぐにでも実行しているでしょう。

 

中央銀行が準備預金を発行するためには、なにかの資産を買う必要があります。しかし、中央銀行が赤字の理由は「逆イールド」ですから、いま債券の買い入れを増やしても(ゴールドでも株式でも)資金収支の赤字は拡大する一方です。

 

利払いが生じる準備預金ではなく、利息がゼロ%の貨幣・現金を発行してなにかを買うと仮定としても、金利が高いですから、家計は貨幣としては退蔵せず、準備預金かリバース・レポとして回帰して、中央銀行には金利負担が発生します。

 

逆に、いまが「順イールド」であると仮定しましょう。しかし、いまは金融引き締めを継続したいときです。そんな局面において、「債務超過を解消したい」がために、資産を大量に購入して準備預金を発行する量的金融緩和・QEを行うと、なおさらインフレのリスクに火をつけることになります。

 

「中銀の債務超過は問題ない」と「貨幣を発行すればインフレになる」が矛盾するようにみえます。

 

まとめると、「景気後退が来て、順イールドに転換し、QEが正当化できる局面が来ることをただ待つしか手がない」のは、転換までの期間と金融市場の解釈が未知数である以上、通貨発行主体としては危うい状態です。

 

最後の最後は、政府の信用力・徴税能力がモノをいいますが、問題はそれに至る過程で、民間の経済主体がそれを理解して行動するかどうかでしょう。「政府の信用力・徴税能力がモノをいう」局面はたいてい、大きなインフレが起きたことを観察したあとになるはずです。

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重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュート

首席研究員/マクロストラテジスト

 

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