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中央銀行による債務超過の“新たなパターン”

そして、中央銀行による量的金融緩和・QEと準備預金への付利が始まり、最近の大幅な利上げとともに「準備預金への付利利払い」が「保有有価証券からの受取利息」を上回って、多くの主要中央銀行の資金収支は赤字に転じています。

 

このうち、FRBは今年の4月に純損失の累積額が資本の額を上回って、事実上の債務超過に陥っています。これは、付利が開始されたことによって生じた「中央銀行による債務超過の新たなパターン」と考えられます。

 

[図表3]に示すとおり、この新たなパターンでは、資産の金額は変わらないものの、市中銀行への付利の利払い(=中央銀行にとっての費用・損失)が増えることによって、資本が目減りし、やがて資本がゼロになっても付利の支払いは続くために、バランスシートが「アンバラ」=債務超過になります。

 

[図表3]中央銀行が債務超過に陥る(新しい)パターン②準備預金への付利支払い
[図表3]中央銀行が債務超過に陥る(新しい)パターン②準備預金への付利支払い

 

[図表4]②付利支払いによる債務超過も国債発行・徴税により解消できる
[図表4]②付利支払いによる債務超過も国債発行・徴税により解消できる

 

合わせて、債務超過の直接的な解消方法は、[図表4]に示すとおり、国債発行や徴税による方法であり、前節の評価損・売却損のパターンと同じです(→市中銀行準備預金を減らして、資本に振り替える)。

 

念のために、債務超過に至る過程を確認するために、「中央銀行にとっての受取利息」が生じる国債利払い時の中央銀行のバランスシートを見ておきます。

 

[図表5の左]に示すとおり、まずは、国債の利払い日に、利払いに相当する金額が「政府預金」から引き落とされます。このうち、

 

1.民間の国債保有分に関する利息は「市中銀行準備預金」へ
2.中央銀行の国債保有分に関する利息は(中銀にとっての受取利息=利益として)「資本」へ

 

と、それぞれクレジットされます。

 

ただし、[同右]に示すとおり、たいていの中央政府は財政赤字であって、国債への利払いに充てる資金がありません。

 

よって、政府は、利払いにあたり、利払い分の金額を、新たな国債発行と中銀からの利益送金(=中銀が受け取った国債利息の返金)というかたちで用立てします。すなわち、多少の時間差はあれど、準備預金残高(=マネーの一部)や政府預金残高、中銀の資本勘定は「行って来い」になります。

 

[図表5]中央銀行のバランスシート(政府の利払い時/利払い資金の調達)
[図表5]中央銀行のバランスシート(政府の利払い時/利払い資金の調達)

 

他方の「中銀による付利支払い」は、[図表6]に示すとおり、付利が市中準備預金にクレジットされると同時に、付利の支払いは中央銀行にとっての支払利息=費用となるために資本が同額減少します。

 

[図表6]中央銀行のバランスシート(中銀の利払い時)
[図表6]中央銀行のバランスシート(中銀の利払い時)

 

この後者が前者を上回ると、財務省への利益送金は停止され、やがては本節の上部でみたとおり、中央銀行が債務超過に陥ります。

 

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