酵素が最もよく働くのは「体温と同じくらい」の温度
私たちの体は実によくできているもので、あらゆる状況に対応できるような予防策が何重にもとられています。もちろん活性酸素に対しても例外ではありません。
活性酸素を無害化する物質を「抗酸化物質」といいますが、人間にも「酵素」という抗酸化物質が生来備わっています。
酵素とは、体内で行われるあらゆる化学反応を円滑に進めるための物質で、数千種類もの酵素がそれぞれの役割を果たしているといわれています。例えば、唾液に含まれるアミラーゼはデンプンを消化するための酵素ですし、ペプシンは胃液に含まれタンパク質を分解している酵素です。
一般に、細胞などの有機体が37度(体温)程度で素早く反応するためには、どうしても酵素の力を必要とします。遺伝子情報で作られるタンパク質の多くは酵素です。細胞は常に多くの酵素を作って活動しており、酵素が触媒となって肝細胞が解毒の働きをするという具合に細胞が働きます。
触媒とは、化学反応の前後でそれ自体は変化しませんが、反応の速度を大きく変える物質のことをいいます。例えば、Aという物質とBという物質を混ぜてCという物質を作るのに1時間かかるとします。ところが、AとBの混合液にXという物質を加えると、たったの10分でCができてしまいます。この場合のXが触媒で、これに当たるのが酵素というわけです。
私たちの体内で起きている触媒は、「一反応一酵素」といわれるほど基質特異性が高いといわれています。基質とは、触媒作用を受けて変化を起こす反応物質のことで、特異性とは作用の相手が限定されていることをいいます。つまり、一つの酵素は特定の物質だけに作用して、特定の化学反応を起こさせる能力があるということです。
しかも、このような化学反応が体内では瞬時に行われているのです。実際に、細胞内で働く数種類のタンパク質を合成する酵素は、アミノ酸からタンパク質を合成するのにわずか数秒しかかからないといいます。なんと酵素は、人間が数百年もかけて科学を発達させたことでようやく行えるようになった化学反応を、いとも簡単に1時間で成し遂げてしまうほどの働きをしているのです。
したがって、私たちがどんなに栄養のある食事を摂ったとしても、酵素が働かなければ栄養素として吸収することも、利用することもできないのです。しかも、酵素は37度くらい、つまり体温と同じ温度で最もよく働きますので、体温が低いと働きが悪くなるために体の機能が低下して病気にもなりやすくなるということです。
抗酸化酵素「SOD」は加齢によって減少
そして、活性酸素を除去する働きをしている抗酸化酵素には、「スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)」「カタラーゼ」「ペルオキシダーゼ」の3つがあります。中でもSODは、最も大量に発生する活性酸素スーパーオキサイドラジカルを除去する力を持った酵素です。
まず、SODがスーパーオキサイドラジカルを過酸化水素と酸素分子に分解します。そして、血液中に存在するカタラーゼが活性酸素である過酸化水素を酸素分子と水に分解してくれます。さらに、ペルオキシダーゼは血液の中で過酸化水素による赤血球のヘモグロビンや細胞膜の酸化を防ぐという、見事な連携プレーで阻止します。
SODは細胞のミトコンドリアで、つまり活性酸素を発生させている同じ場所で作られています。しかも、1秒間に10億個のスーパーオキサイドラジカルを分解してしまうほどの能力を持っているともいわれています。さらに、体内に発生した活性酸素の量に比例して増加するという頼もしい特徴もあるそうです。
ところが、残念ながらこのSOD酵素は加齢とともに減少し、80代ではほとんど分泌されなくなるといわれています。これは、日本人の平均寿命とも一致している点が興味深いところです。