女性ホルモン「エストロゲン」は破骨細胞の働きを抑制
多くの人が、骨は一度つくられたらそれで完成して生涯そのままだと思っています。しかし実際には、古くなった骨を「破骨細胞」が壊し、新しい骨を「骨芽細胞」がつくるという新陳代謝を繰り返しています。骨折をしても骨がくっついて治るのは、骨も新陳代謝によって常に新しい骨に入れ替わっているからに他なりません。
こうして「壊す」と「つくる」のバランスがとれていると、骨量が一定で骨の強度も保つことができます。
しかし、加齢によって体に備わっている再生能力が衰えてくると、骨を「つくる」能力も低下してしまいます。すると、「壊す」働きの方が強くなって骨密度が低下します。
また、女性ホルモンのエストロゲンには、骨を壊す破骨細胞の働きを抑制する作用があるため、女性の場合は閉経後にエストロゲンの分泌が少なくなると、骨の破壊が進んで骨量が低下します。
このように、骨密度が低下して骨がスカスカになり、骨折しやすくなる病気が「骨粗しょう症」です。したがって、男性よりも女性の方がかかりやすい病気ではありますが、男性でも高齢になってカルシウムの吸収能力が低下してくると、骨粗しょう症になりやすくなります。
しかし、骨の強さは骨の量、つまり「骨密度」だけで決まるわけではありません。もう一つ重要なのが「骨質」です。骨の質が悪いと骨は弱くなり、たとえ骨密度がそれほど低くなっていなくても骨折する危険性が高まります。骨質も加齢とともに低下しますが、食事や運動不足などの生活習慣も深く関わっています。
実際に、糖尿病や高血圧、動脈硬化などの生活習慣病や慢性腎臓病の人は、たとえ骨粗しょう症は軽度であっても、骨折につながりやすいことがわかっています。特に糖尿病の人では骨質が低下しやすく、骨折するリスクが高くなるのです。
女性ホルモンのエストロゲンは、強い抗酸化作用があることでも知られています。ですからエストロゲンの分泌が盛んな時期までは、血管の柔軟性が保たれて老化も抑えられているため、男性に比べて動脈硬化になりにくく、女性の寿命が長い理由の一つと考えられています。
よく「恋をすると女性はきれいになる」といいますが、これはおしゃれに気を使うようになるからではなく、エストロゲンが少なからず影響を与えています。恋愛してときめくことで精神的に満たされると、脳が刺激されてドーパミンという神経伝達物質やエストロゲンの分泌が促進されます。ドーパミンは、快楽を得ると分泌されて、やる気を起こす物質です。
そのため、恋をしている女性はドーパミンやエストロゲンの作用によって生き生きと輝き、血管も柔軟になって血流が良くなるので、肌にハリやツヤを与えられて若返るのです。ですからエストロゲンの恩恵がなくなる閉経後には、体内で酸化が進み、男性と同じように生活習慣病が増えてくるのです。裏を返せば、ときめきを持ち続けていれば、エストロゲンの分泌も持続され、いつまでも若さを保つことができるのです。
「骨の新陳代謝」を妨げる酸化ストレス
さて、生活習慣による酸化ストレスが及ぼす影響は、骨も例外ではありません。酸化ストレスが生じると、骨芽細胞や破骨細胞の働きにも影響します。
骨をつくる骨芽細胞の表面にはエストロゲンと結合する受容体があり、エストロゲンがその受容体と結合することで、骨の形成と破壊、また酸化ストレスに関連する因子もうまく調節しています。
そのため、骨芽細胞の受容体に結合するエストロゲンが減少すると、新たな骨がつくられにくくなり、骨の破壊が進むだけでなく酸化スピードも速くなります。
これによって骨の質が低下してしまうので、骨密度がある程度保たれていても骨折するリスクが高まります。
【図表 正常な腰椎と骨粗しょう症による腰椎圧迫骨折を単純CT画像で比較】