(※写真はイメージです/PIXTA)

7月27~28日に行われた金融政策決定会合で、日銀はYCCの柔軟化を決めました。金融政策が正常化に向かうことにより、銀行などの預金金利も上がるのではないかと期待する声もありますが、フィデリティ・インスティテュート首席研究員の重見吉徳氏は「日銀が利上げしても預金金利が上がることはない」と言い切ります。その根拠について、詳しくみていきましょう。。

フィッチによる「米国債格下げ」への反論

1.「債務上限」は米国債の頼り

さて、8月1日に大手格付け会社のフィッチ・レーティングス(以下、フィッチ)は、米国債の長期格付けを「トリプルA」から「ダブルAプラス」に引き下げました。

 

フィッチは「ガバナンスの崩壊」(Erosion of Governance)を根拠のひとつとし、その一例として「債務上限をめぐる瀬戸際のやりとり」を挙げています。

 

しかし、債務上限があるからこそ、議会少数派・野党がギリギリまで自分たちの主張をもとにホワイトハウスとの交渉を深め、議会多数派・与党から譲歩を引き出すことで財政赤字の拡大が緩やかになったり、「公平性」がいくぶん確保・回復された財政支出や減税が実施されたりします。

 

言い換えれば、合意までの「途上」で主張の対立は先鋭化して見えても、「結論」=政策自体は穏健になる・中道に寄ることが期待されます。実際、毎度そうなっています。

 

逆に、債務上限がなく、どちらか一方の政党に財政に関する裁量があり、結果として、フィッチが望む「ガバナンス」が取れている状態は「少数派によるけん制が効かない」ことを意味し、一部の有権者に偏った恩恵を与える財政支出や減税が実行される恐れがあります。

 

特に国民の意見が二分される現下の状況において、予算や債務上限に関する「ガバナンス」が望ましいとは言い難いでしょう。

 

「企業価値の(サステナブルな)最大化」というひとつの目標に向かう一般企業のガバナンスと、有権者が異なる目標や目的、欲求を持っている国家のガバナンスは異なるように思えます。決められない政治だからこそ、「内戦」が起きていないのかもしれません。

政府による国債の発行を拒否するなら、貯蓄は不可能

2.経済規模が広がり、貯蓄意欲が高まれば、「政府債務」は増えていく

フィッチはもうひとつの根拠として、政府債務の増加を挙げています。しかし、(世界)経済の規模と貯蓄意欲が高まれば、(米国の)政府債務は増えていくものです。これは、政府の選択というよりも、我々の選択次第です。

 

我々の口座には毎月貯蓄がいくらか残ります。預金通帳の金額をみるとき「毎月毎月自分が倹約をしてきたためだ」と思うかもしれません。

 

しかし、「貯蓄が生じる」ということは、「生産したもの(=所得)のすべてを自分では消費しなかったという事実」と、「残りを誰かが消費してくれたという事実」の両方が成立している場合のみです。

 

後者が成立しないと、生産額=所得は減り、貯蓄はできません(→それでも、少なくなった所得からさらに貯蓄しようと思えば可能ですが、経済が収縮し、デフレスパイラルに陥っていくことが予見できます)。

 

「残りを消費している」のは、現在の世界では主に政府です。このとき、家計は政府に対して国債という債権を持ちますが、その債権の支払い・返済は我々自身の税金(やインフレ)によってのみ可能となります。

 

言い換えれば、「親の所得の一部を子供が消費するのですが、そのときに子供に借用書を書いてもらっている状況であり、それこそが親にとっての貯蓄」です(→「貯蓄がよいことである」とか、「政府債務が問題である」とかいうことは、しっかりと考えられるべきことでもあり、主観的なことでもあり、仮想的なことでもあるかもしれません)。

 

話を戻すと、もし、政府による国債の発行や(我々の代わりに行う)政府消費を拒否するなら、我々は生産の全量を消費することになり、もちろん消費金額は増えますが、貯蓄は不可能になります。

 

逆にいえば、我々が「今後とも貯蓄を増やしたい」と願うならば、政府の国債は増えていきます。そして、このこと(貯蓄)は世界規模で起きていて、米国以外の我々が貯蓄できるために消費をしているのは米国政府(および米国の企業や家計)です。

 

言い換えれば、米国以外の世界にいる我々が「今後とも貯蓄や貿易黒字、準備通貨を得たい」と願うならば、米国債は増えていく=米国債を買うはずです。政府債務の残高や増加ペースは、貯蓄の欲求とその強弱を示すものです。現在の米国債の利回り水準をみれば、貯蓄意欲は旺盛に思えます。

 

では、足元と今後の米国債を支えるものは、なんでしょうか。

 

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