「実は、日経新聞がよくわからない」ビジネスマン、多数…〈経済学初心者〉を救う、経済学のキホン

「実は、日経新聞がよくわからない」ビジネスマン、多数…〈経済学初心者〉を救う、経済学のキホン

日々仕事にいそしむビジネスマンのなかにも、実は経済学の知識が足りず、日経新聞が読みこなせていないという人が少なくありません。ここでは、経済学の専門家が、経済学を知らない人たちを対象に、経済のキホンをわかりやすく解説します。※本記事は、東洋大学経済学部教授・川野祐司氏の『これさえ読めばサクッとわかる 経済学の教科書』(文眞堂)より抜粋・再編集したものです。

経済活動から見えてくる「社会の仕組み」

◆経済=「多くの人の経済活動」が集まってできたもの

私たちは、日々、食べ物を買って食べたり銀行にお金を預けたりしています。物を買うためにはお金が必要で、私たちは働くことでお金を得ています。

 

このような、消費、金融取引、労働などの活動を経済活動といいます。

 

パンを買って食べるという活動は1人でもできるような気がしますが、その背後では、パンの材料となる小麦などの生産、輸送、小売りなど多くの人が活動しています。

 

経済は多くの人の経済活動が集まってできたものであり、経済学では経済の仕組みはどうなっているのか、経済活動はどのような法則に基づいて行われているのか、どのようなルールを定めるとよりよい経済活動を促すことができるのか。

 

経済学は経済活動を通じて社会の仕組みを学ぶ学問だといえるでしょう。

 

[図表1]経済は多くの経済活動が集まったもの

 

◆最も重要なのは「人々が合理的に考える」という仮説

経済活動の種類は多様で、相互に複雑に絡み合っています。複雑なままで考えようとすると、どこが重要なポイントなのか分からなくなります。

 

そこで、経済学では、いくつもの仮定を置いてできるだけ簡素化し、重要な要素に絞って理論が創られています。

 

仮定を置くことで簡単な式や図で経済を表すことができますが、一方で、その他の要素を切り捨てているため、理論通りに経済が動くわけではありません。経済理論はあくまでも重要な要素だけを考えています。私たちが実体経済を見るときには、切り捨てられた要素のことも考える必要があります。

 

経済学が置く仮定で最も重要なのは「人々が合理的に考える」というものです。合理的とは、どうしたら最も利益を得られるか、という基準を設定して、物事を決める際には感情的なことは一切考えず、冷徹な計算のみを頼りにすることを意味しています。

 

人間は感情に左右される生き物であり、経済学に心理学的な要素を取り入れる試みが進められています※1。しかし、私たちの感情は人によって異なり、私たちの選択はその時々の気分によっても変わります。これは図や式で簡単に表すことができません。そこで、非現実的ではあっても合理的という仮定を置いて議論を展開しています。

 

※1 このような分野を行動経済学といいます。

「経済主体」と「経済循環」という考え方

◆経済を構成している人々=「家計」「企業」「政府」

経済を構成している人々は、家計、企業、政府という3つの経済主体に大別されます。

 

 
[図表2]3つの経済主体

 

家計は、労働力を供給して所得を得て、その所得で消費活動を行う経済主体です。所得から消費額を引いた残りで貯蓄を行います。

 

企業は、機械や設備などの資本と労働という生産要素を用いて生産活動を行い、生産物を産出します。生産物には鉛筆や自動車のように形があるものと、マッサージやスポーツの試合のように形のないものがあります。形のある製品は財、形のない製品はサービスと呼ばれ、あわせて財・サービス(財貨・サービス)といいます。

 

ここでは省略して財と呼びます。企業は生産物を主に家計に売りますが、製鉄会社が自動車会社に鉄を売るように、生産物を他の企業に売ることもあります。これを中間投入といいます。

 

政府は、家計や企業から租税を徴収して、公共財と呼ばれる政府サービスを提供します。経済学の世界では、政府は資源の再配分、所得の再分配、経済安定化という機能を持っているとされていますが、政府がどのような役割を果たすべきかについては、経済学者の間でも意見が分かれています。

 

◆経済の動きを俯瞰したもの=「経済循環」

様々な経済主体が相互に取引を行うことで経済が成り立っており、資源、生産要素、財、資金などが経済主体の間を動いていきます。経済の動きを俯瞰したものを経済循環といい、以下の図のような形をしています※2

 

※2 経済循環は景気の上昇・下降の波を表す景気循環とは異なります。また、図ではお金の取引が省略されています。川野祐司『これさえ読めばすべてわかる国際金融の教科書』文眞堂を参照のこと。

 

[図表3]経済循環

 

経済主体は、家計と企業からなる民間部門と政府部門に分けられます。経済は国内だけでなく、外国との取引もあります。国際的な財の売買を輸出、輸入といいます。輸出から輸入を差し引いたものを貿易収支(純輸出)といいます。また、日本の生命保険会社がアメリカの国債に金融投資するといった、国際的な資金の移動のことを資本移動といいます。

 

◆経済学が扱う市場の種類は、主に「財市場」「通貨市場」「労働市場」の3つ

購入を需要、提供を供給と呼び、需要者と供給者が集まる場所を市場といい、市場を中心とした経済を市場経済といいます。市場では価格と取引量が決まりますが、市場の状況によって価格の決まり方が異なります。

 

経済学では主に、財市場、通貨市場、労働市場を学びます。財市場では、市場の制度設計によって価格や取引量がどのように変わるのかを学びます。競争は十分に行われているか、税などの政策の影響、情報が十分に行き渡っていないと何が起こるのか、などを見ていきます。財市場では、財を生産する企業と財を消費する家計の行動についても詳しく見ていきます。

 

[図表4]経済の3市場

 

通貨市場は貨幣市場、金融市場とも呼ばれます。通貨には現金だけでなく、銀行預金も含まれます。財や金融商品の売買に通貨が使われますが、支払いのために通貨を手に入れようとすることを通貨の需要といいます。通貨は中央銀行や市中銀行が供給し、中央銀行は資金の量をコントロールすることで経済に影響を及ぼします。

 

財市場では家計が需要者、企業が供給者ですが、労働市場では立場が逆転します。仕事を探す家計は労働の供給者、採用する企業は労働の需要者になります。

 

労働市場を巡っては、経済学者の意見は大きく2つに分かれています。どんな条件でもいいから働きたいと思って就職活動しているのに働けない人がいると考えるケインズ派と、働かないのは条件をえり好みしているからだと考える古典派に分かれており、両派は経済政策の効果や経済成長についても大きく意見が異なっています。

 

読者の皆さんがどちらの考え方に賛同するかは自由ですが、両者の考え方を知っておく必要があるでしょう。

 

 

川野 祐司
東洋大学 経済学部国際経済学科 教授

これさえ読めばサクッとわかる 経済学の教科書

これさえ読めばサクッとわかる 経済学の教科書

川野 祐司

文眞堂

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