公園のブランコ設置、だれが経費を支払うべき?…「使う人が負担」「みんなが負担」それぞれの考え方

公園のブランコ設置、だれが経費を支払うべき?…「使う人が負担」「みんなが負担」それぞれの考え方
(画像はイメージです/PIXTA)

経済学の基本的な考えとして、資産の分配を通じて人々の幸せを助ける、というものがあります。ここでは、マクロ経済とミクロ経済の視点から、資産の分配や公共のお金の使われ方について考察します。※本記事は、東洋大学経済学部教授・川野祐司氏の『これさえ読めばサクッとわかる 経済学の教科書』(文眞堂)より抜粋・再編集したものです。

マクロの視点…経済学から見た政府の役割は、主に3つ

政府がどのような役割を果たすべきか、様々な議論があります。基本的には、古典派は政府の役割を最小限に抑えるべきであり、ケインズ派は積極的に介入すべきだとしています。

 

政府は社会を安定させ、文化を発展させ、外交に携わっています。非常に幅広い業務を行っていますが、経済学における政府の役割は「資源の再配分」「所得の再分配」「経済の安定化」の3つになります。

 

◆資源の再配分

資源の再配分は政府が特定の経済主体や産業などに資源を配分させる政策です。厚生経済学の第二定理では、政府がパレート最適な状態を創り出すことができるとされています。

 

しかし、政府がパレート最適な状態を見つけ出すのは非常に難しいのも事実です。適切な税制やルールを通じて、社会をより好ましい状態にすることを目指すのが資源の再配分の機能だといえるでしょう。あとは市場が調整してくれます。排出権取引が一例です。

 

◆所得の再分配

所得の再分配は所得格差を是正するための政策です。所得格差の是正には垂直的衡平と水平的衡平があります1。垂直的衡平は所得の高い人と低い人の間で調整を図るもので、所得が高いほど税を多く負担する累進税性と生活保護などの支援を行う公的扶助が用いられます。水平的衡平は働いているときと働けないときの調整を行うもので、雇用保険などの社会保険が用いられます。

 

※1 「衡平」は量が等しいという意味です。「公平」には社会的に正しいという意味もありますので、本書では使用を避けます。

 

[図表1]垂直的衡平と水平的衡平

 

垂直的衡平は所得や資産の格差の是正によって達成されます。所得格差を計る指標にジニ係数があります。ジニ係数が大きいほど所得格差が大きいことを表しており、所得格差が全くない社会ではジニ係数はゼロ、極めて格差が大きい社会では1になります。

 

ジニ係数はローレンツ曲線から求めることができます。図表2のように人々を所得の低い方から高い方に並べます。一番左は最も所得の低い人(世帯)、一番右は最も所得の高い人(世帯)になります。縦軸は累積の所得を表しています。A点は所得の低い方から80%の人たちの所得を全て合わせても経済全体の30%にしかならないことを表しています。所得の高い残りの20%の人が、国内の所得の70%を占めています。これはかなり不平等だといえます。このようにして何%の人が何%の所得を得ているのかを線で表したものがローレンツ曲線です。

 

[図表2]ジニ係数は面積で表される

 

B点では、80%の人が60%の所得を得ており、A点よりも平等に近づいています。最も平等なのはC点で、80%の人が80%の所得を得ており完全に平等になっています。グラフの対角線を結んだ線を完全平等線といいます。

 

ジニ係数は、ローレンツ曲線と完全平等線で囲まれる面積によって決まり、グラフの下半分の三角形の面積との割合として表されます。A点のローレンツ曲線はB点のローレンツ曲線よりも囲まれる面積が大きくなるため、ジニ係数も大きくなります。

 

◆経済安定化

経済の安定化は景気の波を小さくする役割です。景気の山でGDPを抑制する手段を取り、景気の谷でGDPが増えるような手段を取ります。政府には、税制や社会保険を使って自動的に波を小さくする方法と財政政策や金融政策でそのつど調整する方法があります。そのつど調整する方法は裁量的政策ともいいますが、第12講のIS-LMモデルで政策の効果を見てきました。ここでは、自動的に波を小さくする方法を見ていきましょう。

 

[図表3]経済の安定化

 

好況期には人々の所得が増加して可処分所得も増加します。消費が増加してGDPをさらに押し上げます。行き過ぎた好況を防ぐためには、可処分所得の増加を抑える必要があります。一方、不況期には可処分所得が減少して消費が減少し、GDPをさらに押し下げます。行き過ぎた不況を防ぐためには、可処分所得を増加させる必要があります。

 

可処分所得は所得から税負担を引いたものです2。所得は政府がコントロールできませんが、税負担はコントロールできます。

 

※2 ここでは税負担には年金などの社会保障や雇用保険などの社会保険の負担も含みます。そこで、累進課税と公的扶助を組み合わせます。累進課税は所得が増えれば増えるほど税負担が増える仕組みで、好況期の可処分所得を抑えます。不況期には所得が減るため税負担も減り、可処分所得の減少を和らげます。公的扶助は生活保護のような仕組みを導入することで、不況期に所得がなくなった人の生活を支援し、経済全体の消費の落ち込みを緩和します。このような仕組みは制度を整えるだけで自動的に景気の波を小さくすることから、自動安定化装置、またはビルトインスタビライザーと呼ばれます。

 

◆政策のラグ

財政政策や金融政策を行うと、すぐにGDP、利子率、物価、失業率などが変化します。しかし、現実の経済では政策の効果が出るまでに遅れが生じます。この遅れのことをラグといいます。

 

ラグにはいくつか種類があります。不況期が訪れたことを知るまでのラグを認識ラグといいます。2四半期連続でGDPが減少すると景気後退(リセッション)に入ったとみなされます。つまり、景気が悪化してから少なくとも半年は景気悪化に気づかないことになります。

 

必要な対策を決めるまでのラグを行動ラグといいます。例えば日本では、政府支出を増やすためには、政府支出をどの分野で増やすのか計画を閣議決定して、国会で承認する作業が入ります。衆議院を通過しても参議院で否決されれば、再び衆議院で審議する必要があり、非常に時間がかかります。金融政策の場合、9人の審議委員の多数決で政策を決定できるため、素早く決断できます。

 

最後が効果ラグです。政府支出を増やして公共事業を行うと、工事の進捗に合わせて支払いが行われ、物資の購入や賃金の支払いなどが発生します。GDPへの影響は比較的早く現れます。金融政策の場合、マネーストックの増加が利子率を引き下げますが、利子率の引き下げを見た企業が設備投資を増やすまでには時間がかかります。投資計画を作成し、銀行と交渉し、業者を選定し、工事契約を結ぶなどのプロセスが入るためです。

 

これらのラグのうち、認識ラグは財政政策と金融政策で等しいとしておきます。しかし、行動ラグは財政政策の方が金融政策よりも長く、効果ラグは金融政策の方が財政政策よりも長くなります。しかも、ラグはその時々で長さが変わるため、政策の効果がいつ経済に浸透するのか予測が非常に難しいといえます。

 

ラグを考えると、不況が深刻になる前に対策を打つべきで、これをカウンターシクリカルといいます。シクリカルとは景気のサイクルのことを指します。しかし、認識ラグがあるため対策は遅れがちになります。対策を講じて効果が出るころには不況は終わっていて、経済対策が次の好況期にバブルを発生させるかもしれません。これをプロシクリカルといいます。

 

[図表4]ラグと政策

 

Exercise

 

以下の文章のうち正しいものはどれか。

 

1:二酸化炭素の排出を抑制するために税を課すことは所得の再分配政策である。

2:ジニ係数が小さければ小さいほど所得格差も小さくなる。

3:ローレンツ曲線が完全平等線から遠くなればなるほど所得格差は小さくなる。

4:不況期に積極的に公共事業を行うことを自動安定化装置という。

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

Answer

 

1:誤り。資源の再配分政策である。

2:正しい。ただし、ジニ係数の下限は0。

3:誤り。所得格差は大きくなる。

4:誤り。累進課税のような制度を整えることをいう。

ミクロの視点…公共財の負担は「誰が、いくら」するべきか?

公共財を作るのには費用がかかりますが、販売によって費用を回収することができません。誰がいくら負担をするべきでしょうか。

 

◆誰が費用を負担するのか

リンダールモデルでは、限界便益の高い人がより多く負担すべきだとしています。公園にブランコを作る場合、子供がいてブランコを利用することが多い人はブランコの限界便益を高く評価しますが、独身の人はブランコの限界便益を低く評価します。この場合は、子供がいる人がより多く負担すればいいというのがリンダールモデルの考え方です。

 

非常に合理的な決め方ですが、リンダールモデルには問題があります。「私はブランコを全然使わないので限界便益はゼロ」と主張する人は負担率も0%になりますが、ブランコができた後に利用を阻止することができません。

 

つまり、限界便益をゼロと偽申告して費用負担を逃れつつも公共財を利用するフリーライダー(ただ乗り)の発生を止めることができません。フリーライダーの成功を見た人は、次の公共財の負担を決める際に自分もフリーライダーになろうとします。公共財の生産に必要な費用が集まらなくなり、社会に必要な公共財が提供されなくなってしまいます。

 

公共財の生産に必要な費用を集めるために、受益者負担の原則に基づいて公共財の使用料を取る、税などによる強制徴収などの対策があります。高速道路は政府の負担で作られていますが、利用しない人もいます。

 

そこで、高速道路を利用する人は便益を得ているのでその分の負担をすべきだという考え方が受益者負担です。手数料などの名目で多くの公共財に導入されています。街灯の明かりも公共財ですが、受益者負担による料金徴収は向きません。街灯の真下を通る人は料金が高く、反対側の道路を歩く人は料金が低い、というような料金設定や料金の受け渡しは現実的ではありません。そのような場合は、強制徴収された税金から電気代を払う方がいいでしょう。

 

※ 現実的ではない、という言葉には料金徴収などの費用が徴収される料金に比べて割に合わない、という意味も含まれます。社会的に公平な手段であっても、それを維持するための費用が経済的でなければ、他の方法を考えるべきです。

 

 

川野 祐司
東洋大学 経済学部国際経済学科 教授

 

 

これさえ読めばサクッとわかる 経済学の教科書

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川野 祐司

文眞堂

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