「時給、1000円→1600円に上がった!」…本当に喜んでいいの?
物価が上昇すると購入できるものの数が減少します※。つまり、物価の上昇は所得が減少することと同じ効果を持ちます。物価を考慮しない数値を名目、物価を考慮する数値を実質といいます。名目と実質との変換には、物価指数を使います。
※ 物価が上昇することをインフレーション、物価が下落することをデフレーションといいます。
現在の1時間当たりの賃金(給料)が1000円の人がいて、その人の賃金が1年後に1600円に上昇したとしましょう。これはうれしい状況でしょうか。
ここで表示されている賃金は名目の数値です。物価を考慮した実質も考える必要があります。
名目賃金をモノで計ってみましょう。現在時点でパンが1個100円だとすると、1時間働くとパンが10個買えます。1年後にパンの価格が1個200円に上昇すると、1年後に1時間働くとパンが8個買えます(1600÷200=8)。つまり、このケースでは1年後の実質賃金は下がっているといえます。
1年後の実質賃金が上がるか下がるかは、物価指数がどのように推移するのかによります。物価指数が100から80に下がれば、実質賃金は10から20(=1600÷80)へと大きく上昇します。つまり、インフレーションが起きると実質賃金は下がり、デフレーションが起きると実質賃金が上がります。
CHECK POINT
名目と実質の変換方法は以下のようになります。
実質=名目/物価指数または、名目=実質×物価指数
名目と実質、物価指数がすべて%で表示されている場合は、
名目=実質+物価上昇率または、実質=名目-物価上昇率
となります。%の式はフィッシャー式ともいいます。
代表的な物価指数には、消費者物価指数、企業物価指数、GDPデフレータがあります。
消費者物価指数は私たちが買い物をする際の価格の変化を表しています。毎月公表される利便性から消費者物価指数が物価の推移を表すインフレ率として用いられます。
消費者物価指数や企業物価指数のように毎月公表される数値を月次データ、GDPデフレータのように3カ月ごとに公表される数値を四半期データといいます。物価指数には、基準年を100として現在の物価水準を表す方法と、前期(または前年同期)に比べて何%変化したのかを表す方法があります。
選挙の順序を入れ替えることで、当選者のコントロールは可能
完全競争市場では経済主体が集まって売買を行っています。価格が高すぎれば買わない、価格が低すぎれば売らないという行動は、投票に似ています。完全競争市場は自由に投票ができる場だと考えることもできます。
自由な投票で社会的に望ましい状況に到達することはできるでしょうか。投票のパラドクスを見ていきましょう。
Aさん、Bさん、Cさんの3人の有権者が、3人の候補者(X,Y,Z)が立候補している選挙に投票しようとしています。AさんはXを最も気に入っており、Zは気に入っていません。BさんはZを、CさんはYを最も気に入っています。
このような状況で投票を行うと、AはXに、BはZに、CはYに投票するため、3名の候補者がそれぞれ1票を得ることになり1人を選出することができません。
そこで、まず2人で予備投票を行い、その勝者ともう一人で決選投票を行う方式を考えてみましょう。そうすると、
①XとYで選挙する:勝者X → XとZで選挙する → 当選者:Z
②XとZで選挙する:勝者Z → ZとYで選挙する → 当選者:Y
③YとZで選挙する:勝者Y → YとXで選挙する → 当選者:X
①ではXとYで選挙するとAさんとBさんがXに、CさんがYに投票するためXが勝ちます。次にXとZで選挙すると、AさんがXに、BさんとCさんがZに投票するためZが勝ちます。②と③のように選挙の順序を入れ替えることで当選者をコントロールすることが可能になります。
この分野を研究したアローは、有権者の意向を完全に反映させる投票システムが存在しないことを数学的に証明しました。これをアローの不可能性定理といいます。
万能な投票システムはないため、政府にはできるだけ社会的に望ましい投票ルールを作る責務があるといえます。経済学は、経済主体の行動を理解したうえで適切なルールを考える学問領域だともいえます。
川野 祐司
東洋大学 経済学部国際経済学科 教授