(※写真はイメージです/PIXTA)

立地や眺望のよさから、いまなお高い人気を誇るタワーマンション。しかし、そこを生活拠点とする人には、知っておくべき懸念点があります。自然災害時の不安はもちろん、大規模であるがゆえに高額となる「修繕積立金」を、いつの間にか悪徳業者に使い込まれるといった深刻な問題も起こっています。実情を探ります。

水害等に備えた「防災訓練」に対応できていない管理組合も

そして、タワーマンションで地震以外に気になるのが、水害など有事の対応です。

 

2019年、大雨による多摩川の水位の上昇の影響で川の水が武蔵小杉地域に逆流し、武蔵小杉のタワーマンション地下の電気設備室が浸水・冠水し、停電したというニュースをご記憶の方も多いと思います。

 

このような事態に陥ると、防災計画や防災マニュアルの有無や防災訓練の実践など、対策がしっかりとられていたかどうかが重要になってくるわけですが、実は、実践できている管理組合はごくわずかなのです。防災訓練も消防訓練もできていない管理組合もあり、憂慮すべき状況だといえます。

 

そして、地震や火災など有事の際に、被害が大きくなる傾向があるのはタワーマンションです。マニュアルの策定や、訓練等を誰かが率先して実施する必要があるのですが、意識が希薄で対応ができていない管理組合も多く見受けられます。

 

高層階では有事の際、マンション外への非難は大変になるケースがありますので注意が必要です。そして、高層階は風が強いのが一般的で、窓を開けると強風が吹き抜けることが多いことから、全開になる窓が少ない設計となっているのも、タワーマンションの特徴です。

豪華な共用部、高層建築の特殊な足場…修繕費は大変な金額に

そして大きな問題となるのが、タワーマンションの高額な修繕コストです。筆者の肌感覚では、一般的な10階前後のマンションと比較すると、1戸あたりの修繕コストは1.5倍から2倍で、管理費・修繕積立金は一般的に低層階・高層階に限らず、一律専有部分の平米単価で課金されているものが多くなっています。

 

タワーマンションには豪華な共用部があります。ホテルのようなエントランスホール、美しく管理された庭、水景設備、ゲストルーム、フィットネスルーム、パーティールーム、キッズルーム、シアタールーム、ライブラリー、カフェ、コンビニ等など各種の施設がありますが、これらがすべて共用部となっているだけでなく、前述した非常用エレベーターや非常用発電設備、免震構造や制振工法等の更新、防災センター、スプリンクラーなど、ヘビーな設備が満載されています。

 

そして大規模修繕工事では、超高層ならではの特殊な工法が必要です。一般的な鋼製足場は15階程度までとされており、それより高い階数であるタワーマンションは、足場の建地の鋼管を2本組にして補強する、構造計算をおこなって必要な強度となるように補強するなどで、大規模修繕工事のコストが高額になるのです。

 

またタワーマンションでは、大規模修繕工事の際、ゴンドラ足場併用の仮設工事をするのが一般的です。ゴンドラ足場にもいろいろな種類があり、上下にしか動かせない単体ゴンドラ、左右にも動かせる横行ゴンドラ、建物全体をネットで覆って低層階にステージを設置して作業するゴンドラ、地上から柱を立てその柱を上下するゴンドラ、建物2フロアー分の作業が可能なゴンドラなどがあります。

 

どのような足場を選択するかによってコストにも大きな影響がありますが、一般的に、鋼製足場並みの金額か、それ以上のコストになるのが一般的で、なおかつ作業効率が悪く、安全にも厳しいというのが、ゴンドラ足場の特徴なのです。

「談合・リベート問題」で狙われやすい

また「談合・リベート問題」で狙われやすいのもタワーマンションの特徴です。タワーマンションは、小さくても100戸以上、大型になると1,000戸の住戸があり、数十戸のマンションと比較すると工事費はケタ違いです。そこで、談合リベートの悪徳設計コンサルタントに狙われやすくなるのです。

 

平成29年には、国土交通省によって不適切コンサルタントによる大規模修繕工事の「談合・リベート問題」の注意喚起通知(https://www.mlit.go.jp/common/001230147.pdf)が出され、NHKをはじめ、新聞・雑誌等の各メディアでも広く報じられるほどの社会問題となりました。

 

国交省はNHKの「クローズアップ現代」の取材を受け、「管理組合(住民)の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントが発注に関与することのないように十分に意識をしていただく必要がある」とコメントを出していましたが、ほとんどの管理組合は、この認識を持っていない、あるいは理解していないという問題があります。

 

その結果、修繕積立金をごっそりと使い込まれているタワーマンションは相当数にのぼっており、今後の修繕積立金が圧倒的に不足した状況に陥っています。

タワーマンションへの入居は、将来の展望を熟考して検討を

タワーマンションにはメリットもデメリットもあり、購入にも維持管理もコストがかかります。

 

災害時の懸念や費用面での心配はあるものの、それでもタワーマンションは、立地や交通の便、眺望などにより、今後も高い人気が続くと予想されます。

 

投機的目的での購入者と、実需による購入者との間では、あらゆる問題に認識の差が生じることになるでしょう。不確実性の時代、消費者にも選択の責任が問われます。後悔しない、納得できる選択をするために、自分の人生観や将来の展望を熟考したうえで、タワーマンションへの入居・購入を検討してください。

 

 

須藤 桂一
株式会社シーアイピー 代表取締役社長
一級建築士

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