なぜブランディング起点のPRが必要なのか?
パブリシティの限界
日本のマーケティングの世界では、PR=パブリシティという認識が浸透していますが、PRは企業にとって、事業を推進していくために必要不可欠なマーケティング手法のひとつです。
ただ、ここで間違ってはいけないのは、メディア露出に至るまでの戦略設計です。はっきりいって、なにがなんでもマスメディアに露出させることだけを目的としたPR活動を行うことにはまったく意味がありません。
ひと昔前までは、マスメディア(特にTV)に露出することができれば、多くの人に情報をリーチすることができ、認知拡大・売上増加が見込まれていたのかもしれません。しかし現代では一時的な効果は見込めても、その効果が持続することはありません。
メディアとのリレーション頼みで、半ば強引にパブリシティを獲得することができたとしましょう。その露出(TV・新聞、雑誌)を見た消費者には認知はされます。しかし、情報や物が飽和した現代では、直接消費者の行動に繋がる確率は低く、メディア露出ができれば、おのずと結果がついてくるという考え方はもはや夢物語なのです。
いまの話を聞いて、「いやいや、当たり前でしょ?」と思った方も多くいらっしゃると思います。ですが、上記の考え方に陥ってしまっている会社を筆者はいくつか目にしてきました。
なぜ、そのような現象が起きてしまうのか。――それは、会社の部署構造(仕組み)が必然的に問題を起こしているからなのです。有名な話ですが、世界を代表するブランドを生み出している企業は、マーケティング部ないしは同じ機能を持った部署が、全部署を横断的に管理しています。それは、全部署の判断基準・意思決定の基準や目標を統一することで、すべての行動に一貫性を持たせるためです。
しかし、日本企業の部署構造は、それぞれの部署が独立している状態で、バラバラの判断基準・目標を掲げてしまっているケースが大半を占めています。そのため、PR・広報部が単体で活動してしまい、わかりやすい目標である、メディア露出の量や、広告換算値の獲得に向かってしまう訳です(上司に提示する成果物として、広告換算は非常にわかりやすいため)。
前職のPR会社に勤めていた際、間違ったKPI(メディア露出量・広告換算値)を設定し、必死に努力をしている担当者を、筆者はたくさん見てきました。これは、PR・広報担当者の問題ではなく、企業そのものの問題でもあるともいえます。
パブリシティはあくまで手段のひとつです。しかし、手段を目的にしてしまっては、本末転倒ではないでしょうか。
メディア起点ではなく、ブランド起点のPR戦略
では、PR戦略では、実際どのように考えればいいのか。結論からいうと、メディアのみを意識し(取り上げてもらうことが目的)、露出されるための戦略や施策を行うのではなく、消費者と世の中の流れを踏まえて、そのブランドが提供することができる価値を盛り込んだ戦略・施策を行うことが大切なのです。
つまり、世の中の流れと消費者インサイトをしっかり見抜き、自分たちの価値を明確に表現できるブランドに昇華させ、そのブランドにしかできない施策を行うことができれば、パブリシティは自然と獲得できるのです。
ブランド価値構築を怠り、強引に獲得したパブリシティで話題化を狙うのと、ブランド価値に共感が生まれ、消費者の中で話題となり、ソーシャルメディアなどのなかでその話題が溢れかえった結果、“いま話題のネタ”としてパブリシティを獲得できたのでは、同じパブリシティでもまったく意味も効果も違いますよね。
広告換算で高い数値を達成するためのパブリシティ獲得を意識すればするほど、メディア起点の考え方に進んでしまい、なにを目指しているのか分からなくなります。それは、ターゲットにどのような行動を起こしてほしいのか、目的(ゴール)を忘れているからです。
多くのメディアに取り上げてもらうためにはどうすればいいのかではなく、世の中の流れや課題、消費者インサイトに対して、ブランドが提供できる価値を形に変えて可視化することから始めるのが、ブランド起点(=ブランディング)の正しいPRなのです。
いまの時代にこそ求められる、本来の「ブランディング」
本来のPRとは、組織とその組織を取り巻くステークホルダーとの関係を良好なカタチに導く考え方であり、行動のあり方です。そのための戦略を考える最初のステップとして、ブランドについて考えること(=ブランディング)が勝負のわかれ目であり、そしてブランドが目指したいビジョンを明確にし、ビジョンに沿った活動を行っていくことが重要なのです。
有名な話ですが、Z世代は“自分らしさ”を重要視する傾向が強く、ブランドの品質や性能に加え、コンセプトやストーリーに共感できるのかを確認したうえで、消費行動に移ると言われています。つまり、自分が価値を感じるモノ・共感できるモノ(ブランド)に代価を払うのです。
今後、消費のメインストリームとなるZ世代に向けた最適なコミュニケーション戦略とは、すべての活動の軸となるブランディングと、本質的なPRを考えていくことなのではないでしょうか。
ただ、広告(デジタル・TV・OOHなど)やパブリシティなどで、企業・ブランドの情報を伝えるのではなく、ブランドの根幹を再定義し、本質的な部分(ブランド価値)をしっかり表現していくことが、皆様の企業・ブランドを取り巻くステークホルダーと良好な関係を築いていくための第一歩となるのです。
岡本 浩輝
株式会社 YRK and
ブランドコンサルティングDiv.
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