「後継者不在」は社会的課題
国内における、事業承継(代替わり)の危機的状況は変わりません。70歳を超える経営者のうち、約半数が後継者が決まっておらず、60歳以上の経営者の半数が廃業を予定しています。
2020年のデータでは、約5万軒が休廃業、もしくは解散しています。中小企業においては、M&Aがこの3〜4年で倍増しており、後継者不在で事業承継するより、他社や他業界に売却してしまう傾向も顕著になってきています。
「後継者難倒産」もこの数年、過去最高だった2019年と同様のペースで推移しています。原因としてはコロナ禍による業績の急変や、代表者の急な死亡等で承継が間に合わない「息切れ型」や、後継者の資質不足など、さまざまですが、典型的なケースでは、先代からの意思疎通が円滑に行かず承継後に経営がいきづまり、時間や経営体力のない中小企業から廃業に傾いていくケースです。
また、事業承継の際の先代経営者との関係は、「同族承継」が40%弱で最も高いものの、最近では「非同族」である「内部昇格」や「外部招聘」が増加しています。ファミリー企業であっても「脱ファミリー化」を考える傾向が強くなってきています。
ピンチをチャンスに…事業承継で「ブランディング」を行う
事業承継を単なる、経営権・財務的資産・現状の競争力の源泉・無形の資産などの引き継ぎではありません。同族か否かを問わず、企業トップが代わり若返るときこそ、バックキャスティングで将来を見据えた新しい企業のブランド価値を社内外のステークホルダーすべてに発信できる機会ともいえるのです。代替わりによる、事業承継を「事業そのものの見直し」をゴールとした最大のチャンスとして捉えましょう。最大のチャンスとは、
2.事業そのもののMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)の設定
3.新規事業の創造
4.イノベーションを起こす組織作り
5.自ら考え、行動する「自走社員」への教育の機会
上記のように、事業承継の機会は会社を大きく変える最大のチャンスと捉えることができるのです。しかし、現状では、事業承継がうまくいかず、業績が横ばい、ないしは下降気味の企業が多数あります。大きな原因としては以下の3点が挙げられます。
1.新トップの経営方針やビジョンが、「現状方針の修正型」になっており、MVV、ゴールが設定されず、明確でない。
2.先代のやり方や、過去の成功事例に囚われ、経営が保守的になり、事業が停滞する。
3.企業が自社の価値を明確に提示できていない状況が続いたため、将来ビジョンや価値を語る人材がいない。よって次世代後継者候補が教育されておらず、不在である。
企業全体の存在意義や事業のMVVを設定していくためには、マーケティング部や宣伝部、経営企画部等、一部署が先導するのではなく、企業のバリューチェーン全体における一連の流れのなかでプロジェクトを進行させることがとても重要です。
そのなかで、環境分析を行い、見えてくる企業の課題と打ち手の仮説設計をし、ぶれない判断基準をつくる。その判断基準に沿って、企業全体の価値を社会的価値になるまで徹底的に掘り起こしてゆく。このプロセスが非常に重要なのです。
事業承継を機に事業を成長させるには下記の意識が不可欠です。
1.企業の存在価値、パーパスが非常に明確で、ブランディングにストーリー性を持って、企業ビジョンと事業を強力に接続している。
2.企業ビジョンに共感・共鳴する人材を引き寄せ、非連続的イノベーションを生み出せる「自走社員」を育てる環境がある。
企業のバリューチェーン全体における一連の流れのなかで、企業ビジョンとマーケティング戦略が分離せず、一貫性を保ち、求心力が生まれることで事業承継での「ブランディング」に成功します。そしてその活動を継続して行うことこそが、次の後継者を育てる最大のポイントであると筆者は考えます。
事業承継を成功させる5つのポイント
最後に、事業承継成功のための新たな企業ビジョンを浸透させていくポイントを簡単にまとめておきます。
1.新トップが自ら、新たな企業パーパスをつくることを宣言し、社内メンバーを巻き込むこと。
2.そのうえで、バックキャスティングで将来事業に向けた一貫性のある判断基準を持つこと。
3.そのゴールまでがストーリー性を持って、語られていること。
4.プロジェクトはトップダウンではなく、社員チームビルディングによる共創型のプロセスで行うこと。
5.なぜこれをやるのか? 「WHY」への共感と共鳴を得ること。
小俣 尚
株式会社 YRK and
事業戦略室 室長
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