5レーン理論だと「同サイド圧縮」を回避できない
守備戦術のアップデートとは、「プレス戦術の進化」です。
ペップの名将としての地位を揺るぎないものにしたのは、2011年のマンチェスター・ユナイテッドとのCL決勝だったと思います(バルサが3対1で勝利)。
あの試合、ユナイテッドは守備のときに4-4-2でブロックを組んでいました。ペップはその相手に対してどこにポジションをとってどこにボールを送り込めばいいかを選手たちに示し、選手たちがそれをオートマティックに実行したため、ユナイテッドはプレスのはめどころを見つけられませんでした。そしてバルサの攻撃時には常にフリーマンが生まれていました。
しかしペップという攻撃の革命児の存在が、逆に守備の進化を促します。対抗するかのように、新たな守備戦術が表舞台に姿を現したのです。
その代表格が「同サイド圧縮」。どちらかのサイドへボールを追い込み、同サイドでマンツーマンに近い形でプレスをかけるという守備法です。遠いサイドのマークは捨て、ボールサイドに守備者を集中させるんです。
この守備戦術の普及によって「5レーン理論」は過去のものになります。
すでにペップがバルサやバイエルンを率いていた当時から、この兆候が現れていました。
ビエルサ率いるアスレティック・ビルバオのマンツーマンディフェンスに苦しめられたり、クロップ率いるドルトムントの高い位置からの激しいプレスに手こずったりしていました。
「5レーン理論」というのは、基本的にゾーン相手の攻略法なんですよ。ブロックをつくってゾーンで守る相手には機能するんですが、マンマークや同サイド圧縮を使いこなす相手には苦戦します。
なぜ「5レーン理論」だと、同サイド圧縮を回避できないのか。理由は大きく3つあります。
1つ目は、フリーマンを簡単につくれないということ。
同サイド圧縮では相手が遠いサイドのマークを捨て、ボールサイドでマンマーク気味についてくるので、もはや内側に入ったサイドバックも、インサイドハーフも、ウイングも簡単にはフリーになれません。
相手が「コースカットプレス」(パスコースを消しながらかけるプレス。守備者1人で攻撃者2人を無効化できる)をうまくやってきたら、なおさらフリーマンをつくるのは難しくなります。
2つ目は、相手の立ち位置を考慮していないということ。
サッカーでは言うまでもなく相手が動くので、「人基準」で考えるべき。「場所基準」の理論には限界があります。
たとえば「サイドチェンジしている間に、逆サイドのハーフスペースに立て!」と言っても、相手が素早くスライドしたら簡単にマークされますよね。
本当に機能する理論にするには、「人基準」で場所を定義すべきです。それは講義2(次回記事)で詳しく触れましょう。
3つ目は、体の向きを考慮していないということ。
「5レーン理論」の説明のとき、図の中で人を表す丸はたいてい真正面を向いたイメージで語られていますよね。相手ゴールを向いているので、問題ないように思われるかもしれません。
しかし、これが大問題なんです。
パスコースをつくるには、体の向きがめちゃくちゃ重要です。特にボール保持者の体の向き。体の向きまで考慮しないと、立ち位置は決まりません。
おそらくペップはそんなことは百も承知で、世に広まっている「5レーン」はペップの思考の一部でしかないはずです。
実際、ペップ本の著者のスペイン人ジャーナリストは「詳細まで理解するのが難しい箇所もあった」と正直に書いています。僕たちは説明されていない「行間」を想像しないといけません。
では、体の向きをどうつくればいいのか?
その問いに答えを出してくれるのが「正対理論」です。