アメリカで普及する「ゴールベース・アプローチ」とは?
生徒:先生、アメリカでは資産管理の方法として、「ゴールベース・アプローチ」(Goal Based Approach)が普及していて、日本でも採り入れられるようになったと聞きました。ゴールベース・アプローチとは何でしょうか。
先生:ゴールベース・アプローチは、富裕層のお客様が将来達成したい人生のゴールに合わせた資産管理の方法を提案するサービスだとされているね。将来の事業のあり方、事業承継、子どもの教育、社会貢献といった多方面にわたって、お客様が「将来達成したいゴール」に向かうためにどうしたらいいかという観点から、金融資産を中心とした資産管理のサービスを提供するものなんだ。将来のゴールを達成するまでサービスが続くから、お客様の人生に伴走するようなサービスだと表現されることもあるね。
生徒:私にも人生で達成したい目標があります! ハワイのコンドミニアムでのんびり暮らしたいです!
先生:その目標達成のために、どのようなお金の準備をしたらいいか教えてもらえるとしたら、どう思う?
生徒:ぜひ教えてほしいです!
先生:人生の目標を達成するために必要なのは、お金を貯めることばかりではない。大きな負担となる税金をどのようにコントロールするかという問題が相当に重要だろうね。加えて、ビジネス・教育・不動産などに関する知識も必要になる。こうした問題について、総合的にアドバイスしてくれるサービスがあったらいいと思わない?
生徒:いいですね! 素晴らしいサービスですね!
先生:それが「ゴールベース・プランニング」という手法なんだ。ゴールベース・プランニングという手法の使い方を教える営業トークのことを「ゴールベース・アプローチ」というんだよ。
生徒:これまで証券営業マンの人たちは、単に「儲かりますよ。やってみませんか」と勧めてくるだけでしたけれど、ゴールベース・アプローチは、「顧客本位」で考えてくれるということですね!
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【ラップ口座】絶対に知るべき!ゴールベース・アプローチの真実
「ゴール」は運用方法に関係しない!?
先生:ここで冷静に考えてみようか。例えば、10年後に支出する予定の「教育費」と、いつか社会貢献したいと考える「寄付金」のためのお金を作るに当たって、資産運用がどう関係してくるか、わかるかな?
生徒:そうですね…。子どもの教育費は絶対に必要なので、リスクの高い株式投資ではなく、安全な債券投資で準備したいですね。その一方で、寄付金のためのお金は、余裕がなければやめればいいので、株式投資でいいのではないでしょうか。
先生:なるほど、財源を分けるという考え方だね。それもいいだろうね。ただ、誤解しているのは、ここでとりあげた教育費や寄付金のためだけに資産運用しているわけではない、ということだよ。それ以外にもお金を持っているはずだよね? 金融資産全体における最適な運用方法があるのに、教育費や寄付金のためだけに、わざわざそれを崩してしまうことを、どう思う?
生徒:確かに、バランスが悪くなるとリターンが低くなる危険性がありますね…。
先生:10年後に意識する支出は、教育費であっても寄付金であっても、なんでもいいんだよ。その時点まで最適な運用方法で増やしてきたお金があって、それが必要となった時点で、必要な金額だけ取り崩したらいい。だから、一部だけ運用のバランスを崩す必要はないんだ。つまり、資金の使途、運用方法との間に無理やり関係性を設定する必要性はないんだよ。
営業トークとしてのゴールベース・アプローチ
生徒:それなのに、なぜ〈ゴールベース・アプローチ〉が行われるのでしょうか?
先生:それは、証券営業マンが使う「営業トーク」として、有効だからだね。アメリカで流行しているからといって、優れた資産運用の方法ではないんだ。勘違いしている人もいるけれど、これはファイナンス理論に基づく体系化された手法ではないんだよ。実は、まったく無意味な話なんだ。
生徒:そうなんですね…! でも、営業マンの立場からすると、この営業トークで金融商品が売れるのであれば、使いたいですよね?
先生:そうだね。最初に、お客様が将来自分のやりたいことをイメージしてくれて、そのイメージと金融商品を関連付けてくれることは、好都合だね。お客様は、金融商品が、自分の夢や目標を実現するための手段であれば、それを買ってくれる可能性が高い。営業マンから「お客様の夢や目標をかなえるための資産運用を、ご一緒に考えます。そして、一生涯お客様に寄り添っていきます」と言われると悪い印象を持たないでしょう?
生徒:そうですね。素敵な話に聞こえます。
先生:そうすると、売るべき商品は、金融商品でなくてもいい。なんでもいいんだよ。生命保険、不動産、自動車、税務コンサルティングといったお客様にとって大きな支出であれば、人生の夢や目標に寄り添うという名目の営業トークは効果的だろうね。
生徒:そうですね。人生の夢や目標が実現できるならば、大きな支出でも決断できる気が…。
先生:加えて、お客様に将来の夢や目標を語らせると、営業マンはお客様に関する情報を豊富に得ることができる。例えば、家族構成、家族の資産の状況や、不動産売買のニーズなど、金融商品以外の商品販売につながる情報が手に入る可能性が大きいよね。これを「プロファイリング」といって、銀行の営業マンの基本なんだよ。
生徒:でも、色々な悩み相談に乗ってくれるのはいいですよね?
先生:人生の夢と目標を実現してくれるなら、金融商品も買ってしまいそうだよね。でも、そんな夢や目標が叶うという保証はないんだよ。これは「人生商法」だと言ってもいいね。
生徒:人生商法とは、うまい売り方ですね!
先生:専門家に人生相談したいことがあるのはわかるよ。ビジネス、家族関係、健康、教育、税金など、いろいろな問題があるよね。しかし、これらの問題を資産運用と結びつけて考えることは、まったく意味のないことなんだよ。本当に人生相談したいなら、経営コンサルタント、税理士、医師、心理カウンセラーなどに、きちんとお金を支払って相談すべきだよ。そもそも証券営業マンが人生相談に対応できると思う?
生徒:親身になって話を聞いてくれるので、信頼できる人だと思っていました…。
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ここでも登場!ラップ口座
先生:頼れそうで親切そうな営業マンが寄り添って話を聞いてくれたら、だれでも資産運用をお願いしたくなるからね。でも、結果として提案されるのは、間違いなく「ラップ口座」だよ。
生徒:えーっ!? ラップ口座ですか!?
先生:そう。毎年3%ずつ費用を取られてしまうボッタクリ商品だ。考えてみてほしいんだけど、人生相談の費用として金融資産残高の3%を毎年支払うのは全く馬鹿馬鹿しいということだよ。資産運用を、将来の夢や目標と関連付ける必要はないんだ。資産運用はインデックス・ファンドを買っておけば、それが正解なんだよ。IFAが「米国で最先端のゴールベース・アプローチです」なんて言いながらラップ口座を売り込んできたら要注意だね。
生徒:勉強になります…。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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