特殊詐欺の事例
本稿では、実際に発生した事件を参考に、詳細を一部改変して特殊詐欺の手口やその対策方法を解説します。具体的な事例を知っておくことで、同種の手口に遭遇したとき、冷静な対処がしやすくなります。
1.手口について
(1)一旦カードを預かり、不正引き出しを行うケース
78歳、1人暮らしのAさんに、役所から電話がかかってきました。話を聞くと、「役所のミスで保険料を取りすぎたので、超えた分の1万円を返金します」との内容でした。手続きにキャッシュカードが必要とのことで、自宅に来た職員を名乗る人物に直接手渡しでカードを預け、暗証番号を伝えました。
しかし、そのままいつまで経っても連絡はなく、口座からは身に覚えのない50万円の出金があり、詐欺と判明しました。
(2)直接現金を取りに来るケース
82歳、1人暮らしのBさんに、知らない番号から電話がかかってきました。電話に出たのは息子で、非常に取り乱しており、泣いているようです。会社の上司と交代し、話を聞くと息子が会社のお金を横領してしまったとのこと。すぐに100万円を返すことができれば、警察への被害届は出さずに、事を穏便に済ませることができ、息子は会社で引き続き勤務することができると言われました。
息子の逮捕や失職を避けられるなら、とBさんは大急ぎで現金を引き出しました。そして、家に来た会社の後輩と名乗る人物に現金を直接渡しました。しかしその後、息子に連絡すると、横領の事実は全く無く、お金を受け取った人物も全く知らないとの返答でした。そこで、初めてBさんは自分が詐欺に遭ったと気づきました。
2.解説
以前は電話を通して被害者に指示を出し、被害者自身に振り込ませるケースがありましたが、金融機関による注意喚起などの対策が取られた結果、現在ではそのようなケースは以前より少なくなっている印象です。
現在は、上述した2つのケースのように、カードを預かりATMで不正引き出しを行うケースや、被害者に現金を用意させ、それを取りに来るといった、カードや現金を「直接手渡し」することによって財産を奪われるケースが増えています。
被害金回収の難しさについて
特殊詐欺の被害に遭った際には、被害金の回収が困難になることが多いです。
理由としては、大きく分けて以下の二つが挙げられます。
①犯罪を犯す人々は初めから経済的に困窮しており、捕まった犯人に金銭的余裕がなく、弁償することができない。
②被害金自体が隠匿され、その捜索が困難である。
したがって、まずは自分自身を守り、詐欺の被害に遭わないようにすることが最も重要です。
事前にできる対策は
近年、特殊詐欺においては、「知らない人がキャッシュカードや現金を受け取りに来る」というケースが多く見られます。
それに対し、詐欺に騙されずに済むような対策を考えてみましょう。
対策(1)事前の注意喚起
この記事を読んでいる方の中には、「自分は騙されない」、「我が家の親は大丈夫だろう」と思われている方もいるかもしれません。しかし、詐欺の手口は日々巧妙化しており、その被害はなくなっていないというのが現状です。
事前に行える対策として、例えば、お盆などで実家に帰省した際には、「こんな手口の詐欺もあるので、気をつけてください」と注意を促すような会話をすることが重要だと考えます。「(理由が何であれ)カードや現金を、初対面の人が家に取りに来る」という状況に対しては、特に警戒するよう伝えましょう。
還付金を名目にした特殊詐欺について理解している人でも、例えば「犯罪に利用されている可能性があるため、キャッシュカードを預からせてください」などと言われた際に、うっかり応じてしまう可能性があります。そのような場合であっても「カードを取りに来る」という状況に対して疑いを持ち、確認を行うことが重要です。
対策(2)確認、相談すること
詐欺被害を防ぐために効果的だった状況を考えると、不審に思い警察に相談したり、周囲に話をした場合が多い印象を受けます。
詐欺グループは様々な手口で被害者を焦らせ、冷静な判断を難しくさせる傾向にあります。そこで、キャッシュカードや現金の受け渡しを求められた場合には、家族や金融機関に確認を行うなど、予め対策を考えておくことが大切です。
被害者の方々がよく語るのは、「まさか自分が詐欺の被害に遭うとは思わなかった」ということです。だからこそ、自分自身や親が被害者になる可能性があることを認識し、カードや現金の受け渡しを求められた際には警戒することが、大事な財産を守る上で重要です。
おわりに
今回紹介した以外にも、詐欺の手口は様々です。怪しいと思ったら、早めに弁護士や警察に相談してみましょう。
相談の結果、問題なかったならそこまでの痛手ではありませんが、相談しなかった結果、大きな損害を被ることもあるからです。