(※写真はイメージです/PIXTA)

「司法の国際化」が急速に進む今、日本はどう対応するべきか、日本企業はどう生き延びていかなければならないのかを考えていく本連載。今回は、「ヒンクリー地下水六価クロム汚染訴訟」と「内部告発訴訟」(Qui Tam Action)について、NY州弁護士・秋山武夫氏が解説していきます。 ※ドル対円の換算率を便宜的に1ドル130円で計算しています。

映画にもなったこの事件。現実はハッピーエンドとはいかず…

この経過は映画『エリン・ブロコビッチ』(2000年、ジュリア・ロバーツ主演)でも描かれハッピーエンドでしたが、現実は単純ではなかったようです。PG&E社は地下水の浄化も約束しましたが、この後、ヒンクリーの地下水汚染は広がり続け、2003年にはこの訴訟とは別に他の潜在的被害者をクラスとする訴訟が起こされています。

 

2006年、同社は1100人の原告に2億9500万ドル(383億円)を支払うことに合意しました。その後も街の人口は減り続け、ゴーストタウン化しているとも言われています。

政府に代わって市民が起こす「内部告発訴訟(Qui Tam Action)」

民事訴訟を促して社会問題を解決する制度の一つとして「内部告発訴訟」(Qui Tam Action)があります。内部告発訴訟とは内部告発者(Whistleblower)が政府に代わって起こす訴訟で、その代表的なものが政府への不正請求を取り締まる不正請求防止法(False Claims Act, FCA)に基づくものです。

 

連邦政府との取引において業者が水増し請求を行ったような場合に適用される法律で、個人が「内部告発訴訟」を起こすことで不正を明らかにし、不当に奪われた資金(法律ではその3倍の請求が可能)を政府が回収できれば、その15~30%を報奨金として受け取ることができるというものです。

 

米国のこの制度もまた英国のコモン・ローから継承したものですが、独立直後の1778年7月、米国の大陸会議で内部告発者保護法が制定され、米国独自の発展を遂げていきます。

 

19世紀、米国の南北戦争で横行したのが、使えない武器や腐った食べ物などを供給する軍事物資業者による不正でした。当時のリンカーン大統領が不正請求防止法(FCA)を制定し、「内部告発訴訟」をその中の条項として組み込みました。

 

第2次世界大戦時は、軍事調達を優先する政府によりFCAは弱体化されますが、1980年代半ば、レーガン政権が国防費の大幅な増加を図ろうとすると、請負業者の不正請求が懸念され再び強化されていきます。その後も、内部告発者の保護が規定されるなど、より制度が機能するように改正されていきました。

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※本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『司法の国際化と日本』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。

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