前回は、他業種とのマッチングに成功した製造業M&Aの事例を紹介しました。今回は、製造業のM&Aで「のれん代」に大きな期待ができない理由を見ていきます。

高額というだけで企業は売れにくくなる!?

M&Aでは株価の高い企業は売れにくい傾向にあります。買い手側にとってM&Aは投資行為ですから、購入価格が高ければ高いほど、同時にリスクも高くなるからです。

 

実際に売れやすいのも譲渡価格が10億円を下回る企業です。製造業の場合には、人材不足や国内回帰といった業界的な事情を背景として、適切な相手に強みをアピールすることで、高い価値で売却できる可能性が高まると説明してきました。

 

しかしそれでも、高い価格が売れにくい傾向は他の業界と変わらないということには注意してください。特に難しい問題はのれん代をどうするかというものです。

 

製造業では工場などの不動産がある関係で純資産ベースでの価格がそもそも高額になりがちです。製造業で、のれん代の目安と考えられている営業利益の3~5年分を上乗せしてしまうと、明らかに高額で手を出しにくい企業になることがあります。

 

M&Aは製造業だけで競い合っているわけではないので、他業界の株価の低い企業と比べられれば明らかに不利ですし、初めから候補先として興味を持ってもらえません。つまり、のれん代には過度な期待はできないということです。

 

まずは純資産ベースの評価を基準にしておいて、それ以外の技術や人材面で希少性や固有性があるという時に、のれん代として上乗せする可能性を模索するのが製造業M&Aでの定石です。

会社への思い入れは当然だが・・・

創業者にとって事業譲渡時につけられる価格は、今まで自分がやってきたことの評価を表していると考える人もいます。会社を創業し、軌道に乗せて、年商何億という規模までにするまでの苦労は並み大抵ではないはずです。そのため会社を子どもだと言ったり、人生そのものだと言ったりするくらい強い思い入れを持っています。

 

そんな大切な存在を売却するのですから、なるべく高く評価をして欲しい、評価してくれる相手にしか売りたくないという希望を持つことは何も間違っていません。

 

しかし、M&Aで最優先すべきは経営者としての責務を果たすことであり、譲渡価格にこだわることではありません、責務とは、従業員そして、家族、取引先、顧客を守ることです。

 

譲渡価格は買い手側と売り手側双方の合意が必要ですから、妥協できるラインを予め自分の中で決めておくなどして、譲歩することが必須だと認識してください。

本連載は、2016年4月27日刊行の書籍『中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

浅岡 和彦

幻冬舎メディアコンサルティング

自分が高齢になってもその技術や従業員を守っていきたい、自社の技術を信頼してくれる取引先に迷惑をかけたくない──これは中小製造業の社長に共通する願いでしょう。 しかし、社長の思いに反し、多くの会社がいま存続の危機…

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