2-2. オフィスビルの新規供給見通し
日本不動産研究所「全国オフィスビル調査(2022年1月時点)」によれば、福岡市は、新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルの割合が36%と、札幌市と並んで高い水準にある(図表-17)。
そこで、これら築40年以上が経過したオフィスビルの建て替えを促す目的で、天神地区では「天神ビックバン」プロジェクト、博多駅前では「博多コネクティッドボーナス」が進行中である。
(1)「天神ビックバン」プロジェクト
天神地区7では、容積率や航空法の高さ制限の緩和等により再開発を誘導する「天神ビックバン」プロジェクトが2015年にスタートした(図表-18)。このプロジェクトでは、延床面積は44.4万m2から75.7万m2へ1.7倍に拡大、雇用数は4万人から9.7万人へ2.4倍に拡大、年間8,500億円の経済波及効果が発生すると試算されている。
天神地区では、「天神ビックバン」を活用した再開発が進展している。2022年12月に「旧大名小学校跡地」で、25階建て(延床面積約9.1万m2)の複合ビル「福岡⼤名ガーデンシティ」が竣工した(図表-18 ①)。
この開発プロジェクトでは、ワンフロアの貸床面積が2,500m2以上のオフィスが配置され、2023年4月に入居が開始したほか8、九州初となるラグジュアリーホテル「ザ・リッツ・カールトン ホテル」が2023年6月21日に開業予定である9。
2024年以降も、再開発計画が複数予定されている。ヒューリックは「ヒューリック福岡ビル」を、ホテルを核とした大型複合商業ビル(延床面積約2.1万m2・地上19階建て)に建て替えを行い、2024年12月に竣工予定である10(図表-18 ②)。また、西日本鉄道は、「福岡ビル」跡地の天神一丁目 11 番街区に複合ビル(延床面積約14.7万m2・地上19階建て)を開発し、2024年に竣工予定である11(図表-18 ③)。
2025年は、日本生命保険と積水ハウスが「日本生命福岡ビル」と「福岡三栄ビル」を、オフィスを核とした大型複合ビル「(仮称)天神1丁目北14番街区ビル」(延床面積約3.9万m2・地上18階建て)に建て替えを行い、2025年3月に完成予定である12(図表-18 ④)。
また、住友生命保険と福岡地所は、天神2丁目で「住友生命福岡ビル」と「天神西通りビジネスセンター」を、オフィスを核とした大型複合ビル(延床面積約4.2万m2・地上24階建て)に建て替えを行い、2025年5月に完成予定である13(図表-18 ⑤)。
その後も、三菱地所が複合商業施設「イムズ跡地」で、オフィスとホテルを核にした複合ビル「(仮称)天神 1-7 計画」(延床面積約7.4万m2・地上20階建て)を開発し、2026年3月に竣工予定である14(図表-18 ⑥)。また、天神一丁目761プロジェクト合同会社15と福岡地所は、天神ビジネスセンターに隣接する「福岡市役所北別館跡地」および「メディアモール天神(MMT)跡地」で、オフィスを核とした大型複合ビル「(仮称)天神ビジネスセンター2期計画」(延床面積約6.2万m2・地上18階建て)を開発し、2026年6月を竣工予定である16(図表-18 ⑦)。
7 天神交差点から半径約500mのエリア
8 大名プロジェクト特定目的会社・代表企業:積水ハウス株式会社「福岡の新たなランドマーク『福岡大名ガーデンシティ』 4月よりオフィス入居を開始」(2023年4月7日)
9 積水ハウス株式会社・マリオット・インターナショナル「ザ・リッツ・カールトン福岡 2023年6月21日開業決定~ザ・リッツ・カールトンが九州初上陸~」(2023年2月28日)
10 ヒューリック株式会社「(仮称)ヒューリック福岡ビル建替計画」の概要について」(2021年10月3日)
11 西日本鉄道株式会社「創造交差点 MEETS DIFFERENT IDEAS | 福ビル街区建替プロジェクト」
12 日本生命保険相互会社・積水ハウス株式会社「日本生命福岡ビル・福岡三栄ビルの建替について」(2021年12月13日)
13 住友生命保険相互会社・福岡地所株式会社「「(仮称)住友生命福岡ビル・西通りビジネスセンター建替計画」の概要について」(2022年6月30日)
14 三菱地所株式会社「(仮称)天神 1-7 計画」始動」(2022年8月30日)
15 福岡地所、九州電力、九電工で構成される特定目的会社
16 天神一丁目761プロジェクト合同会社・福岡地所株式会社「(仮称)天神ビジネスセンター2期計画の概要について」(2023年6月7日)
(2)「博多コネクティッドボーナス」
福岡市は、2019年5月にビルの建替えを促す優遇処置制度「博多コネクティッドボーナス17」を公表し、博多駅周辺の再開発を後押ししている。このプロジェクトでは、延床面積は34.1万m2から49.8万m2へ1.5倍に拡大、雇用数は3.2万人から5.1万人へ1.6倍に拡大、年間約5,000億円の経済活動波及効果が発生すると試算されている。
博多駅周辺では、「博多コネクティッドボーナス」を活用した再開発が進んでいる。NTT都市開発と大成建設は、博多駅東一丁目「博多スターレーン跡地」において、オフィスを含む複合施設「博多イーストテラス」(延床面積約2.9万m2・地上10階建て)を開発し、2022年6月に竣工した(図表-19 ①)。
その後も、大規模開発計画が複数予定されている。JR九州、福岡地所、麻生の3社で構成する企業グループは、「福岡東総合庁舎敷地」を活用し、12階建てのオフィスビル(延床面積約2.2万m2)を建設し、2024年3月に開業予定である18(図表-19 ②)。
また、西日本シティ銀行は福岡地所と共同で、博多駅前の保有ビル(本店本館ビル・本店別館ビル・事務本部ビル)を連鎖的に建て替える19。その第一弾として、本店本館ビルを、オフィスを核とした複合ビル(延床面積約7.5万m2・地上14階建て)に建て替えを行い、2026年1月に竣工予定である20(図表-19 ③)。
17 つながり・広がりが生まれる広場の創出など、賑わいの拡大に寄与したビルの容積率を最大で50%拡大する等の優遇処置。
18 九州旅客鉄道株式会社・福岡地所株式会社・ 株式会社麻生 「~人流・ビジネス・エリア再開発の起点となる次世代オフィス~福岡東総合庁舎敷地に新たなランドマークが誕生します!」(2021年11月26日)
19 西日本シティ銀行「西日本シティ銀行保有ビルの連鎖的再開発のお知らせ」(2019年12月19日)
20 株式会社西日本シティ銀行・福岡地所株式会社「西日本シティ銀行本店本館建替えプロジェクトの概要について」(2023年3月30日)
(3)福岡市の新規供給予定面積
2022年の福岡の新規供給面積は約1.5万坪となり、過去最高水準となった2021年(約3.1万坪)の約5割の水準に留まった(図表-20)。
しかし、2023年以降、「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネクティッドボーナス」を背景に複数の大規模開発が進行中で、年間2万坪を超える新規供給が続く見通しである。総ストック量に対する今後3 年間(2023 年~2025 年)の供給割合は7.8%と、主要地方都市の中で最も高くなる見通しである(図表-21)。
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