(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者施設の運営会社、介護コンサルタントとして17年間の経験を有し、うち約4年間を高齢者施設の施設長として勤務した山田勝義氏が、ある認知症の入居者とのエピソードをご紹介します。

佐藤さんが「ドアを叩いていたワケ」

実は、佐藤さんは現役時代に東京都の下町で鉄工所を経営されていました。そして老人ホームに入居してもなお、佐藤さんは、「月末になると支払いや資金繰りに奔走されていた」のだと思います。この現役時代の苦労の記憶が本能に刷り込まれ、このような行動を取ってしまうのが分かったのです。

 

早くに奥様を亡くされ、お子様を男手ひとつで立派に育て上げられた佐藤さんは、今や悠々自適なはずなのです。しかし、佐藤さんにとっては老人ホームに入ってからも、この月末の支払いや資金繰りについての心配が大きく、ついにはそのために2階から飛び降りてしまうというような行動に出たのでしょう。

 

それから私は月末になり、佐藤さんがまた険しい表情で、激しく正面玄関のドアを叩いている時に、このように耳元で囁きました。

 

「佐藤さん、事務員が支払いや資金繰り関係を全て手配しましたよ」

 

そうすると、佐藤さんは安心し、落ち着いた表情となり、

 

「そうか」

 

と、ボソッとつぶやきながら居室に戻りました。

 

これはある意味、私が佐藤さんにウソをついたことになります。しかし、単なるウソと、時間を掛けて佐藤さんの人生をしっかりと受け止めての「ウソ」とは、その「ウソ」の意味が全く異なるのではないでしょうか。

 

私は、このことを通じて、入居者の生活を支えるためには「つかなければならないウソ」もあるのだということを教えていただきました。

※本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『老人ホーム施設長奮闘記』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。

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