ラグジュアリーブランド戦略に成功している「シャンパン」と失敗している「日本酒」
ラグジュアリーブランドと同じように、「憧れの数値」が大きくなるように、いい場所へのこだわった出店や体験、また上質なソーシャルメディアでの認知を増やし、強気の価格設計で買える人の数を戦略的にコントロールすることで価値を成長させているのです。
たとえば、誰でも知っているシャンパン。シャンパーニュ地方でしか作られていない、唯一無二のストーリーがあるラグジュアリーブランドであり、誰もが広くその価値を認知しています。
しかし、数は限られていて、価格も高く、いつでも買える存在ではありません。むしろ、「特別なお祝いのときにこそ飲むもの」といったイメージすら存在します。類似のスパークリングワインなどが存在するのも、彼らにとっては認知を拡大するための追い風であり、競合にはポジショニングしていません。独自の価格感を貫いています。
しかし一方の日本酒は、知る人ぞ知る幻の酒のような存在が多いのが実状。最近では獺祭などがブランドとして認知を広げることに成功し、「憧れの数値」を最大化することに成功しました。
知っている人の数が少ないことは、一見希少性という意味では魅力的に感じますが、ワインに負けない価値を持っていても、その価格はワインやシャンパンには及びません。前述の通り、「知る人ぞ知る」は、「憧れの数値」が大きくなりきらないからです。そういう意味では、日本酒はまだまだラグジュアリーブランドとはいいがたいものが多いのかもしれません。
ビジネスモデルが大きく異なる「プレミアム」と「ラグジュアリー」
もちろん、世の中のすべての商品がこの方程式に当てはまるわけではありませんし、プレミアムブランドにも一般的なブランドと比べると、とても価値があるものともいえます。そしてそのなかで、ラグジュアリーブランドは、似ているようで、そもそものマーケティング戦略がまったく違うことも解ります。
唯一無二のストーリーが必要で、「憧れの数値」が大きくなるような、認知と希少性のコントロールを行っており、またそれらを使ったときの満足感(購入者を満足させるだけの品質や体験)を作っていることは、この一例から仮説が立ちます。
山口周さんのおっしゃる「役に立つ商品」と「意味がある商品」という考え方(参考図書:山口周著『ニュータイプの時代』)がありますが、プレミアムブランドは、「役に立つブランド」のなかでの最高峰に近いのかもしれません。日本が得意なカテゴリーです。他の商品と相対的に見て価値が高く、価格をお客様の相場感から決定します。
一方のラグジュアリーブランドは、「意味がある商品」に近い。価格は、作り手が決め、その価値を新しく世のなかに提案していく戦略とパワーが必要になり、ビジネスモデルがそもそも違うのです。
まとめ
大量生産、大量消費により物の価格を安くして販売し、みんなが同じ物を手にして幸せを得る時代は終わったのかも知れません。もしかすると、終わらせなければならないときなのかもしれません。
原価高騰も出てきているなか、スタグフレーションのような不本意な値上げではなく、いい物を、もっと強気の価格で売り、関わる人すべてをブランディングの力で幸せにするべき時代。
そうすれば、売り手も儲かり、儲かれば、その売り手はお金を使う。また作り手はもっといい商品を作れたり、もっと憧れや夢の体験を作れたりもします。結果的に、市場にはもっとお金が回り、景気も多少なりとも改善していくかもしれません。
もちろん、経済はそんなに簡単によくなるものではないのですが、このブランド戦略は、もしかすると、ほんの小さな回復の一端を担えるかもしれないとも感じています。
戸田 成人
株式会社 YRK and
執行役員/C.B.O 兼 事業コンサルティング本部統括/ブランディングストラテジスト
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